テラーノベル
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放課後。
教室には、まだ何人か残っている。
紬は鞄を肩にかけて立ち上がった。
帰ろうとした、そのとき。
「紬」
呼ばれる。
振り向く。
悠生だった。
「今から帰る?」
「うん」
「じゃあ途中まで一緒に行こ」
断る理由もない。
紬は小さく頷いた。
校門を出る。
夕方の空は薄いオレンジ色だった。
風が少し冷たい。
しばらく無言で歩く。
別に気まずいわけじゃない。
昔からこうだった。
悠生は必要以上に話しかけてこない。
だから楽だった。
「そういえば」
悠生が口を開く。
「この前、部屋片付けてたら昔の写真出てきた」
紬の足が止まりそうになる。
「写真?」
「うん」
悠生はスマホを取り出した。
画面を操作する。
そして一枚の写真を見せた。
そこには、小さな三人がいた。
蒼真。
紬。
悠生。
幼稚園くらいだろうか。
三人とも笑っている。
紬は思わず画面に顔を近づけた。
「……これ」
声が小さくなる。
写真の蒼真は長めの髪をしていた。
頬も丸い。
知らない人が見たら女の子だと思うだろう。
悠生が笑う。
「懐かしいな」
紬は返事をしない。
写真から目が離せなかった。
昔の蒼真。
昔の蒼真。
昔の蒼真。
胸の奥が少し痛い。
懐かしいのに。
見るたび苦しくなる。
「蒼真、可愛かったよな」
悠生が何気なく言う。
紬の指先がぴくりと動く。
「……うん」
それだけ答える。
悠生は少し画面を眺めていた。
「俺さ」
ぽつり。
「最初、蒼真のこと女の子だと思ってた」
笑いながら言う。
紬は笑えなかった。
「まあ、みんなそうだったけど」
悠生は続ける。
「でも本人、今その話嫌がるよな」
紬の視線が落ちる。
アスファルトが見える。
嫌がる。
そう。
嫌がる。
まるで。
なかったことみたいに。
「紬?」
悠生が少し不思議そうに覗き込む。
「大丈夫?」
紬は慌てて顔を上げた。
「大丈夫」
反射みたいに答える。
嘘だった。
大丈夫なわけがない。
だって。
蒼真は忘れたがっている。
捨てたがっている。
でも。
紬は忘れられない。
あの頃の蒼真が好きだった。
恋愛じゃない。
たぶん。
違う。
でも。
あの頃の蒼真を見ていると安心した。
自分も同じだったから。
自分も、そうなれると思っていたから。
「……紬」
悠生が名前を呼ぶ。
今度は少し真面目な声だった。
「なんでそんなに蒼真にこだわるの」
息が止まる。
風が吹く。
制服の裾が揺れる。
答えられない。
自分でも分からない。
兄だから?
双子だから?
憧れてたから?
違う気がする。
もっと奥。
もっと深いところ。
「別に」
やっと出た言葉は、それだけだった。
悠生は少しだけ困った顔をした。
でも追及しない。
「そっか」
それで終わり。
けれど。
その日の夜。
紬は一人でアルバムを開く。
何度も。
何度も。
昔の蒼真の写真を見る。
笑っている顔。
長い髪。
柔らかな表情。
ページの上に指を置く。
もういない。
今の蒼真は、ここにはいない。
それなのに。
「……返して」
誰にも聞こえない声だった。
写真の中の蒼真は。
当然、何も答えなかった。
コメント
1件
うわああ第3話もエモすぎるよ…!!😭💕 昔の写真で蘇る蒼真の姿と、今の蒼真のギャップが切なすぎて胸がぎゅってなった… 特に「返して」って呟く紬の気持ち、ものすごく伝わってくる。双子だからこそ分かり合える苦しさと、それでも離れていく感覚がリアルで、紬の心の痛みがひしひしと伝わってきたよ…次も絶対読む!!✨