テラーノベル
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放課後の相談室。窓の外は夕焼けで、廊下を歩く部活帰りの声が遠くに響いていた。
「……ここ、いいですか?」
顔をのぞかせたのは一年の女子生徒。どこかそわそわしている。
「座れよ」
日下部が机の上のノートを閉じると、彼女はかばんを膝に抱えたまま、ちょっと迷ったように話し始めた。
「実は……部活、変えようか悩んでて」
「ふーん」
「新しいこと、やってみたいんです。でも……失敗したらどうしようって思うと、踏み出せなくて」
彼女は自分の靴先を見ながら、小さな声で続ける。
「なんか、挑戦するのって“すごい人”だけがやることみたいで……」
日下部は少し笑った。
「挑戦ってさ、“すごい人”がやるからすごいんじゃなくて、“やってみたい人”がやるもんだろ」
「……でも、怖いです」
「怖いからやるんだよ」
女子が驚いたように顔を上げる。
日下部は視線をそらさず、淡々と続けた。
「怖さがゼロのことなんか、最初からおまえに合ってねぇ。
“できるかな”ってドキドキするから、やる意味が出るんだろ」
沈黙。
彼女はかばんを抱え直し、口元に少しだけ笑みを浮かべた。
「……なんか、言われてみればそうですね」
「だろ」
教室の時計の針が小さく進む音がした。
夕日の中、彼女の横顔は少し軽くなったように見えた。
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