テラーノベル
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#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
114
深い時計の余韻が消えても、夜はそのまま続いていた。
誰もすぐには声を出さない。観客も、仲間たちも、さっきサベリオが言ったことを、それぞれの場所で受け止めているようだった。
やがて最初に動いたのはデシアだった。
彼女は舞台の中央で録音機を置き、サベリオのほうへ半歩近づく。
「聞いたからね」
泣き笑いみたいな顔でそう言う。
サベリオも笑った。
「今さら撤回できない感じ?」
「できない」
客席のあちこちで、こらえきれなかったような笑いがもれた。その笑いに押されるように、空気がまた動き始める。
デシアは最後の音を流した。
橋の鐘。
雨楽器。
若者たちの声。
市場の朝。
床板のきしみ。
そして、さっきこの場で口にされた願い。
今夜のすべてが重なって、シェルターの中にひとつの大きな呼吸が生まれる。
サベリオはその真ん中に立ちながら、時計ばかり気にしてしまう自分を止められなかった。零時十三分。何度も夜が折り返し、朝を拒んだ時刻だ。
やがて壁の時計の針が、静かにその場所へ近づく。
雨はまだ降っている。けれどもう暴れてはいない。
仲間たちの顔が見える。アルヴェは腕を組んだまま目を細め、トゥランは入口側の安全確認を終えてほっと息を吐いている。ハルティナは肩の力を抜き、ミゲロは今にも泣きそうな顔で笑っていた。ヌバーはなぜか姿勢だけ妙にいい。パルテナは唇をかみしめ、ロヴィーサは胸の前で指を組んでいる。
皆がいる。
誰も置いていかれていない。
鐘が鳴った。
零時十三分。
サベリオは息をのむ。
胸の奥に、あの引きずり戻される感覚が来るかもしれないと身構えた。景色がゆがみ、音がほどけ、朝へ巻き戻る。何度も味わったあの感覚を、体はまだ覚えている。
けれど何も起きない。
いや、起きていた。
起きなかったのだ。巻き戻りだけが。
鐘の余韻はまっすぐ夜に伸び、そのまま静かに消えていく。足元は揺れない。視界も変わらない。目の前のデシアも、濡れた提灯の明かりも、そのままだ。
サベリオはしばらく理解できなかった。
デシアがぽろりと涙をこぼす。
「朝まで、行ける」
その声で、ようやく実感が追いついた。
サベリオの膝から力が抜けそうになり、ミゲロが後ろから肩をつかむ。
「おい、ここで倒れるな」
「たぶん今まででいちばん倒れそう」
笑いと泣き声が一緒に起きた。
長い夜の果てに、世界は何も派手に変わらない。ただ、次の瞬間もちゃんと続いていく。
それがこんなにまぶしいことを、サベリオは初めて知った。
シェルターの外では、雨が少しずつ細くなっていく。
夜はようやく、朝へ進み始めていた。
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