テラーノベル
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放課後。
教室には夕方の光が残っている。
相談者は窓際の席に座り、消しゴムの角を爪で削っていた。
「自分が分からないんです」
遥は教科書を閉じる。
「何が」
「本当の自分です」
一拍。
「よくあるじゃないですか。自分らしく、とか、ありのままで、とか」
少し苦笑する。
「でも、その自分が何なのか分からない」
教室が静まる。
「人によって態度変わるし、家と学校で全然違うし、一人の時と人前でも違うし」
一拍。
「どれが本物なのか」
沈黙。
「全部嘘みたいで。全部作ってるみたいで。何か」
少し視線が落ちる。
「空っぽな気がする」
遥は黙って聞いている。
しばらくして言った。
「一個にしなくていい」
相談者は顔を上げる。
「え」
「本当の自分」
遥は続ける。
「一人しかいないと思ってるか」
教室が静まる。
相談者は止まる。
「……普通そうじゃないですか」
遥は少し考える。
「学校で友達と話す時と、先生と話す時、家で一人の時、全部同じ人間か」
相談者は首を傾げる。
「同じではないです。でも」
一拍。
「演じてる感じがして」
遥は机に指を置く。
「演じてる部分もある。人間だから」
教室が静まる。
「でも」
少し間。
「演じてることと偽物は別」
相談者は黙る。
遥は続ける。
「笑いたくない日でも笑う。緊張してても平気な顔する。場面によって話し方変える」
一拍。
「それ、別に嘘じゃない」
沈黙。
「じゃあ」
相談者は言う。
「本当の自分って何なんですか」
遥は少し考える。
「知らない」
短く。
相談者は思わず笑った。
「知らないんですか」
「多分」
遥は窓の外を見る。
「最初から完成してるものじゃない」
教室が静まる。
「え」
「探したら見つかる宝物みたいなものじゃなくて」
一拍。
「後からできていくものかもしれない」
相談者は黙る。
遥は続ける。
「だから、今分からなくても変じゃない。むしろ」
少し間を置く。
「高校生で全部分かってる方が珍しい」
教室が静まる。
相談者は机を見る。
「何か、自分のこと分かってないと駄目だと思ってました」
遥は鞄を持つ。
「自分のことなんて」
一拍。
「本人が一番分かってないことも多い」
相談者は少し笑った。
窓の外は暗くなり始めている。
「本当の自分」
それを探して苦しくなる人は少なくない。
でも、人は一つの顔だけで生きているわけじゃない。
優しい自分も、嫌な自分も、弱い自分も、無理している自分も。
全部含めて、まだ途中の自分なのかもしれない。
コメント
1件
めっちゃわかる〜〜〜😭💕「本当の自分って何なんだろう」って思春期の誰もが通る迷い道、この話めっちゃ刺さった…!遥の「一個にしなくていい」「後からできていくものかもしれない」って台詞にすごく救われた気持ちになったよ。全部嘘じゃなくて、全部が自分って考え方、すごく優しいなって思った🌙✨ 悩んでる相談者に押し付けずにそっと寄り添う距離感が最高でした!ruruhaさん、今日もエモい話ありがとうございます🌸
ruruha
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