テラーノベル
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白山小梅
その日、七星は久しぶりに涼真と飲んでいた。
最近ずっと誘いを断っていたが、今日は珍しく酒が飲みたい気分だった。
二人は居酒屋のカウンターに並んで座っていた。
「久しぶりなのに、なんか暗いな、お前」
「え? そう?」
「うん。悩み事でもあるのか?」
「別に……」
「別に、か。なんかお前、変わったな」
「変わった? そんなことないよ」
「いや、変わったって。前はなんでも俺に話してたのに」
「話してたって、どんなこと?」
「キャバクラ時代、男にプロポーズされたとか、ストーカーまがいの奴につきまとわれたとかさ」
「ああ、あれは本当に困ってたから……」
「それ以外にもあるぞ。高校時代のさ」
「何?」
「初恋の相手のこととか?」
涼真の言葉に、七星はビールジョッキを置き、涼真の背中をバシッと叩いた。
「そんなこと言ってないよ!」
「あれ? そうだっけ?」
「だって、私、まだ恋したことないもん」
その言葉に、涼真は目を丸くした。
「マジか?」
「うん。私、昔から男の人はあまり信用してないし、理想も高いから……たぶん相手は見つからないと思うし」
七星の言葉に、涼真は「あちゃ~」と顔をゆがめた。
「お前もう24だろ? マジで男に惚れたことないのか? さすがに好きな男の一人や二人いないとまずいんじゃないか?」
「何その言い方! それじゃあまるで私が変な人みたいじゃん」
「変だよ変! 七星は変態~!」
調子に乗った涼真の背中を、七星はさらに強く叩いた。
「いって~な~」
「変なこと言う涼兄が悪いからだよ」
「変なことじゃないって。マジで天国のばーちゃんも心配してると思うから、心を鬼にして言ってやったんじゃん」
「余計なお世話!」
「でも、マジでいないのかよ、気になる男とか……。もしどうしてもいないっていうんだったら、俺が……」
涼真がそう言いかけたとき、七星がかぶせるように言った。
「ねえ、涼兄。人を好きになるって、どんな感じ?」
意外な質問に、涼真は目を見開いた。
「どんな感じって……初恋を思い出せばわかるだろう? あ、ダメか。お前、まだ初恋してないもんな」
「そうだよ」
「うーん……そうだなあ。例えば、好きな相手がいたら、その人のことばかり考えたり、相手の行動がいちいち気になったり、笑顔を見たら胸がズキンとしたり……あとは、なんだ?」
涼真はハイボールを一口飲み、続けた。
「あ、あとは、その人のために何かしてあげたいとか、元気がないときは励ましてあげたいとか……とにかく、その人に幸せでいてほしいって思うことなんじゃないの?」
「幸せでいて……ほしい?」
「そう。本来、愛っていうのはそういうもんじゃないの?」
「…………」
七星はそのとき、ふと思った。
最愛の人を亡くした優人が、自分に妻の面影を重ねて笑顔を取り戻していたとしたら?
湊総合病院に来たばかりの頃、優人はどこか自信を失っているように見えた。
そんな優人を見て、七星は無意識に彼に元気になってほしいと願っていた。
七星と関わるうちに、少しずつ笑顔が増え、外科医としての腕も戻っていった。
それは、妻に似た自分を見て、彼が元気を取り戻していったということなのだろうか?
そう思うと、優人に対して怒る理由が見つからなくなった。
(もし私に奥さんの影を重ねていたとしても、それで彼が元気になるならいいのでは?)
七星は急にそう思えてきた。
そして、意地を張って怒っていた自分が、急にばからしくなる。
「どうした?」
急に黙り込んだ七星を見て、涼真が尋ねた。
「ねぇ、涼兄。私、好きな人できたかも」
「はっ?」
涼真は飲みかけの酒を吹き出しそうになった。
「“その人に幸せでいてほしい”“その人に笑っていてほしい”そう思うのが愛なんでしょ?」
「ま、まあ、そうだな」
「だったら私、そう思ってる人がいる! それって、私がその人のことを好きってことだよね?」
涼真は愕然とした。
(いつの間に……? それで最近、七星は俺の誘いを断ってたのか?)
七星が以前のように誘いに乗ってこなかった理由を、このとき涼真は初めて理解した。
すると、七星が涼真の方へ向き直って言った。
「やった! こんな私でも恋ができるんだ! ねえ涼兄、私、やっと人を好きになれたよ」
「あ、ああ……」
「こんな気持ち、初めて! へぇ……これが“恋”だったんだね」
はしゃぐ七星の隣で、涼真は複雑な表情を浮かべていた。
「ねえ、涼兄! この“相手を好きな気持ち”って、大事に持ち続けてればいいんだよね?」
「ま、まあそうだな。ただ、両想いになるには、どちらかがアクションを起こさないとな」
「アクション?」
「好きだって伝えたり、デートに誘ったりさ」
涼真の言葉は、七星にはどこか陳腐に聞こえた。
「そんなのしなくても、好きな気持ちを大事にしてるだけでいいじゃん」
「まあ、そうだけど……普通は相手とどうこうなりたいから、アクションを起こすんじゃないのか?」
「ううん、いい。この気持ちを大切に持ち続けるだけで私は満足だから」
「なんだそれ。そんなんじゃ、いつまで経っても嫁にいけねーぞ」
「結婚なんてしなくてもいいもん。初めて芽生えたこの気持ちを一生大事にできたら、それでいいんだ」
きっぱり言い切る七星の表情は、生き生きとしていた。
「そんなに好きなのか? その男のこと」
「たぶん……ね」
「そっか……。それって、病院の奴?」
「涼兄には内緒!」
「ちっ、教えてくれたっていーじゃんか」
「ダメ~!」
七星は愉快そうに笑い、空になったグラスを掲げてビールのおかわりを頼んだ。
新しいビールが運ばれると、美味しそうにぐびぐびと飲む。
その様子を見ながら、涼真は複雑な表情のまま、ひそかに失恋の痛みを味わっていた。
コメント
18件
凉兄ー切ないー🥲それでもきっと、これからも七星ちゃんの幸せを願っていくんだろうなぁ🥺 七星ちゃんが気付いた、この純粋な気持ちを――優人先生に伝えて欲しい✨ そして優人先生も…🥹 2人がまた話せる機会が訪れますように(*´˘`*)♡✨
涼兄、残念ながら失恋決定だわ💔🙏 でも七星ちゃんの恋の指南役としては師匠と呼びたい✨🧑🏫❗️ 七星ちゃんのこれまでの優人先生を思った行動や気持ちが愛であり恋でもあるって気づいたし、意地を張る必要が無くなったもんね💕 2人が離れる前にどちらからもアクションを起こしてほしいな🎶
涼兄😭😭😭大事にし過ぎて、恋について気づかせてしまう件😖時すでに遅し😭涼兄にもよい人見つかりますように😘 七星ちゃんの恋、無償の愛♡これをさ、飲んでいるところ優人さん見ていないかしらね😅😅大迫さんのように優人に点火する材料が欲しい🤩🤩涼兄ならないかしら?