テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
114
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
また七日前の朝が来た。
同じ冷たい空気、同じ石畳、同じ雨どいの匂い。けれどサベリオの胸の内側だけは、前の周回の痛みでまだざらついていた。脚立の上で葉を取り除く手も、どこか力が入りすぎる。
下から見上げたミゲロが眉をひそめた。
「朝から難しい顔だな」
「してた?」
「してる。釘にまで謝りそうな顔」
苦笑いも返せないまま仕事を終えると、サベリオは工具箱を抱えてシェルターの裏手へ回った。人の少ない場所で少し息を整えようとしたのに、先客がいた。
ハルティナだ。
彼女は一人で古い長机を運ぼうとしていた。けれど持ち上げかけたところであっさり手を離し、通りかかったコスタチンに明るく言った。
「そっち持って。私ひとりだと脚をぶつける」
「ずいぶん迷いがないな」
「ぶつけてから頼むより早いでしょ」
そのあとも彼女は、ひもを結ぶ時はヌバーを呼び、重い箱はミゲロへ回し、紙の整理はホレに頼んだ。どれも当然みたいな顔で、しかも頼まれた相手も嫌な顔をしない。むしろ少し誇らしげに手を貸していく。
サベリオは思わず聞いた。
「頼みごと、そんなに簡単にできるもの?」
ハルティナは首をかしげた。
「できないの?」
「迷惑かな、とか」
「迷惑かどうかは相手が決めるよ。言わなきゃ、助けたい人の出番まで奪うじゃない」
その言葉が、まっすぐ胸に入った。
前の周回で自分は、怖さのあまりデシアから役目を奪った。守るためだと思い込んでいたが、あれは相手の力も意志も信じていなかったということだ。
「……手伝ってくれ、って言うの、苦手なんだ」
サベリオが正直に言うと、ハルティナは笑わなかった。
「じゃあ練習しよう」
「練習?」
「うん。今すぐ」
逃げる間もなく、彼女はサベリオの背中を押した。ちょうどそこへ、ヌバーが段ボールを三つ抱えてよろよろ歩いてくる。
「ヌバー」
「はいはい、何ですか」
「その箱、一つ持つ」
「それは頼む側じゃなくて申し出る側」
「違う、ええと……一緒に運んでくれ」
ヌバーは目を丸くしたあと、すぐににやりと笑った。
「誘ってるんですけど、って言おうと思ったら先に来た。いいね、それ」
箱を受け取る。たったそれだけなのに、肩のあたりの力が少し抜けた。
昼過ぎ、サベリオは意を決してデシアのところへ行った。録音機の電池を確かめている彼女の前で、息を吸う。
「今日の橋の下見、ひとりで行かないで」
デシアの目が細くなる。
「また止めるの?」
「違う。一緒に行かせてほしい。……それと、危ないところを見る時は、ヴィタノフにも来てもらいたい」
少し沈黙があった。
「頼ってるの?」
「たぶん、そう」
デシアはほんの少しだけ口元をゆるめた。
「たぶんなのに前よりずっとまし」
その返事だけで、胸の奥に小さな灯りがともる。
頼ることは、弱さを見せることじゃないのかもしれない。ひとりで抱えたまま壊れるより、ずっと前へ進めるやり方なのかもしれない。
サベリオはまだ上手くできないまま、それでももう一度言った。
「今日、手伝ってくれ」
今度はデシアが、はっきりとうなずいた。