テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
翌朝、夏帆は鳥の声で目を覚ました。
うっすらと瞼を開け、頭を動かした瞬間、激しい痛みが走る。
(二日酔い? 昨日ちょっと飲みすぎたかも)
そう思いながら起き上がろうとしたとき、体の上に何かの重みを感じた。
(?)
手を伸ばすと、それは――誰かの腕だった。
(だ、誰っ!?)
慌てて隣を見ると、そこには透也が静かに眠っていた。
夏帆は息が止まりそうになる。
(嘘っ……なんで?)
昨夜の記憶を必死に辿る。
透也が仮眠を取り、夏帆はひとりで月を眺めながらワインを飲んでいた――そこまでは覚えている。
そこで、はっと気づいた。
ここがリビングではなく、寝室だということに。
(……どうして? いったい何があったの?)
慌てて布団の中の自分の服装を確認すると、下着とキャミソールだけだったので、顔が一気に青ざめる。
(ま、まさか……しちゃってないよね?)
確証がないまま、不安が胸を締めつけた。
そのとき、透也がもぞりと動いたので、夏帆は心臓が跳ねる。
透也はゆっくり目を開け、夏帆を見つけると、少し照れたように笑った。
「夏帆ちゃん、おっは~!」
戸惑う夏帆に、透也が首をかしげる。
「どうしたの? そんな顔して」
「い、いえ……昨夜の記憶がまったくなくて……」
「あはは、そうなんだ。あ、もしかして俺と何かあったか心配してた?」
「別に……そ、そういうわけでは……」
「大丈夫だよ。昨夜は俺が起きたら、今度は夏帆ちゃんが寝ちゃっててさ。だからここに運んだだけ。で、そのまま俺も寝ちゃったみたいだな……」
その言葉に、夏帆は一気に肩の力が抜けた。
「そうだったんですね……。すみません、寝ちゃって……」
「ワインかなり飲んでたよね。俺が起きたら二本目が空になってた」
「すみません。月を眺めてたらなんだか気分がよくなっちゃって」
「俺も見たよ。昨日は満月だったみたいだね。ちょうど窓から月明かりが入ってきて綺麗だったな~」
「はい。とっても」
透也は両手を上げて伸びをした。
その拍子に布団がずれ、鍛えられた上半身が露わになる。
思っていたより筋肉がついていて、夏帆は思わず息をのんだ。
「それにしても、このベッド寝心地いいなあ。まだ新しいよね?」
「はい。引っ越すときに新調しました」
「なるほど、そりゃ快適なわけだ」
そう言うと、透也はくるりと夏帆の方へ向き直った。
(ひっ……)
顔が十数センチの距離に近づき、夏帆は心の中で悲鳴を上げる。
未来の上司と同じベッドでこんな至近距離――それ自体が異常だ。
夏帆はただ戸惑うしかなかった。
そんな彼女を見て、透也はくすっと笑う。
「あ~夏帆ちゃん、困ったね~。これから上司になる男と同じベッドで一夜を過ごしちゃうなんて……」
からかうような口調に、夏帆は少しムッとして言った。
「酔っぱらって寝落ちしただけですから。私たちの間には何もありませんし」
「あは。本当に?」
透也は夏帆の瞳を覗き込み、楽しそうに言う。
「た、たしかに服は脱いでますけど、下着はつけてますし……何もないですから」
「あは、確かにそうだけど……」
透也は穏やかに微笑む。
「勝手に脱がせて悪かったけど、皺になると困ると思ってさ」
「ありがとうございます」
「ちなみに俺は今パンツ一丁なんだけど、このまま起きてもいい?」
布団を剥ぎそうな気配に、夏帆は慌てて止めた。
「あわわ……ちょ、ちょっと待ってください! 私が先に出ます!」
「そんなに慌てなくてもいいのに」
「いえ、すぐ出ますから!」
夏帆は薄手の毛布を引き抜き体に巻きつけると、猫背気味にベッドから降りる。
そして、クローゼットから服を取り出すと、逃げるように寝室を出た。
透也はその背中を見送りながら、楽しそうに笑った。
洗面所へ逃げ込んだ夏帆は、急いで着替え、顔を洗い髪をまとめる。
化粧をする余裕もなく、すっぴんのままリビングへ向かった。
(あれ? 昨日使ったお皿やコップがない……)
慌てて確認すると、食洗器の中で綺麗になっていた。
(すごい……全部片づけてくれたんだ……)
ならば朝食くらいは出すべきだと思い、準備を始めた。
そのとき、寝室から透也が現れた。
少し乱れた髪と無精ひげが妙に男らしく見えて、夏帆の胸が跳ねる。
(イケメンの寝起きって、なんでこんなに絵になるの……)
感心していると、透也が言った。
「じゃあ俺、帰るね。泊めてくれてありがとう」
「あ……あの、よかったら朝食食べていってください」
「え? いいの?」
透也は子供のように目を輝かせる。
「大したものはありませんが、それでよかったら……」
「いや、嬉しいな。じゃあお言葉に甘えて」
透也は顔を洗いに行き、夏帆はパンと卵とコーヒーの簡単な朝食を用意した。
準備が終わると、二人は向かいあって食べ始める。
「ん、美味い!」
「ただの目玉焼きですよ……」
「でも、夏帆ちゃんが作ってくれたと思うと、すごく美味しいよ」
「ふふっ、ありがとうございます」
「このパンも美味しいね。近所で買ったの?」
「駅の反対側のパン屋さんです」
「へえ……あそこの店のパン、こんなに美味しいんだ。知らなかったな……」
同じ地元同士の他愛のない会話が続く。
その何気ないひとときは、緊張していた夏帆の心をゆっくり溶かしていった。
食事を終えると、透也は「ごちそうさま。美味しかったよ」と言って家へ戻っていった。
玄関で見送った夏帆は、ドアを閉めた瞬間、その場にへたり込む。
(あ~……上司になる人と、なんでこうなるの……)
自分の失態に情けなくなる。
そして服を脱がせてもらったことを思い出し、さらに顔が熱くなった。
(もう……どうしよう! 月曜日、どんな顔をして会えばいいの?)
そう心の中でつぶやきながら、夏帆はリビングへ戻り、朝食の片づけを始めた。
コメント
13件
ぐっすり眠れるなんて相性が良い証拠🤭 これからもっと近付いていきますよね〜💓💓💓
"一緒にリビングで寝た"の予想の遥か斜め上をいく策士透也さん🙌💝 上司になる人と一夜を明かしちゃったね、夏帆ちゃん🤣💕 でも楽しく朝ごはんを食べれるのはやっぱりお互い波長が合うんだねぇ🎶 良き良き👩❤️👩🌷🌻
ヾ( 〃∇〃)ツ キャーーーッ!妄想を超えて来た!! ヤバイね、この人絶対ホストよりタチ悪いよ!笑 パンイチ透也の布団を剥ぎ取りたい〜♡
ruruha
1,089
#狂愛
柏木さくら
4,367
#ロマンスファンタジー
Jasmine
987
桃下結衣
954