テラーノベル
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放課後の体育倉庫裏。
縄跳びで手首を後ろに縛られる。
ザラザラした繊維が手首に食い込んで、皮膚が少しずつ擦れて熱を持つ。
(……逃げられない。もう、やり方も分からない)
(でも、このまま声を出したら……もっと笑われる)
後ろから首に縄をかけられ、じわじわ締められる。
喉の奥がせり上がるように苦しくなって、呼吸の入り口が細くなる。
足先がじんじんしてくる。
「おい、顔真っ赤。すげぇキモい」
耳元で笑う声。息が首にかかる。
(見られてる。……全部見られてる)
(なんで、笑えるんだ……なんで)
横からスマホのシャッター音。
それだけで、身体が一瞬硬直する。
“撮られた”感覚が、縄よりもきつく胸を締める。
翌日の教室。
机に座ると、背中に冷たい液体が垂れる。
制服シャツがじっとりと湿り、背骨をなぞって広がる。
振り返ると、ペットボトルの水を握ったやつが笑っていた。
「お前、水浴び好きだろ? 昨日も楽しそうだったじゃん」
(楽しそう、じゃない……)
(でも、否定すると、また)
笑い声の波が後ろから押し寄せる。
その音が耳の奥で反響して、教室全体が遠く感じる。
昼休み。
買ったパンを手に持った瞬間、横からはじかれて宙に舞う。
床に落ちたパンを拾おうとしゃがむと、靴底がそれを踏み潰す。
パンの柔らかい感触と、靴底が擦る音が同時に伝わる。
「ほら、拾えよ。“きも犬”のごはん」
(拾えば……終わる。拾えば笑いは止まる)
(……でも、食べなきゃいけないのか? 本当に……食べろって?)
無言で拾う。
笑い声がまた大きくなる。
「マジで拾った! うわ、ガチじゃん」
放課後。
今日は教室の掃除用ロッカーの中に押し込まれる。
狭い空間に背中を丸め、顔の前にモップと雑巾がぶら下がる。
雑巾から漂う酸っぱい匂いが喉に絡む。
(臭い。……吐きそう。でも……騒いだら、もっと)
(ああ、早く……時間過ぎろ)
外からロッカーを叩く音が響く。
「おーい、“きも犬小屋”の中で寝てんの?」
「鳴けよ、ワンって」
笑い声。
中で拳を握るけど、爪が自分の手のひらを傷つけるだけ。
(出たい……でも、どこに行っても……)
(もう、行く場所なんかないだろ)
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