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蓮司の相談室2

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蓮司の相談室2

79 - 第79話 好きなものを、好きって言えなくなった

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2026年01月09日

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放課後の相談室は、まだ部活の声が廊下に残っていた。

遠くで笑い声がして、近くでは何も起きていない。


ドアが開いて、相談者が入ってくる。

制服のまま、カバンを抱えたまま。


「……いい?」

「どうぞ」


椅子に座るなり、相談者は天井を見た。


「変な相談なんだけどさ」

「変じゃないやつ、あんま来ない」

「……だよね」


少し間が空く。


「最近、好きなものがあっても、誰にも言えなくなった」

「ほう」

「前は普通に話してたのに」

「何が変わった」

「笑われた」

「一回?」

「何回か」


蓮司は「なるほど」とだけ言う。


「アニメとか音楽とか」

「あるあるだな」

「“それまだ好きなの?”って言われてさ」

「年齢マウント」

「そう」


相談者は笑うけど、目は笑ってない。


「別に、否定されたわけじゃないんだよ」

「でも?」

「空気が変わった」


蓮司は頷いた。


「中学生あるあるの、静かなやつだ」

「それ以来さ」

「うん」

「好きって言う前に考えるようになった」

「考える?」

「これ言って大丈夫か、とか。

ダサくないか、とか。

浮かないか、とか。

嫌われないか、とか」


蓮司はペンを回す。


「安全確認が増えたな」

「……そう」

「誰にも説明しなくていいか。

責められないか。

自分で自分を否定しないか」


相談者は驚いた顔をする。


「それ」

「当たってる?」

「めちゃくちゃ」


少し笑って、でもすぐ真顔に戻る。


「でさ」

「うん」

「気づいたら、何が好きだったか分かんなくなってた」

「来たな」

「前は楽しかったのに」

「今は?」

「“これ好きって言っていいやつ?”って考えてる」


蓮司は椅子にもたれる。


「好きが、検閲通ってないと出せなくなった」

「……」

「それ、疲れるだろ」

「疲れる。 でも、やめられない」

「やめたら?」

「また笑われるかも」


沈黙が落ちる。

廊下の声が少し遠くなる。


「なあ」


蓮司が言う。


「好きなものって、誰の許可制だ?」

「……分かんない」

「誰かにOKもらってから?」

「……違う」

「だよな」


蓮司は軽く肩をすくめる。


「でも今は」

「はい」

「“自分で自分に許可出せてない”状態だ」


相談者は唇を噛む。


「好きって言えなくなった時点で」

「はい」

「もう一回、好きは傷ついてる」

「……」

「だから慎重になるのは普通」

「弱いからじゃない?」

「違う」


即答だった。


「ちゃんと大事だったからだ」


相談者の目が揺れる。


「でもさ」

「うん」

「このままだと」

「うん」

「何も言えなくなる」

「……」

「好きも、嫌いも、どうでもいいになる」


相談者は小さく頷いた。


「じゃあ、どうすればいい」


蓮司は少し考える。


「全部言わなくていい」

「……」

「全員に見せなくていい」

「……」

「でも」

「でも?」

「一個だけ、残せ」

「何を」

「“誰にも見せない好き”」


相談者は首をかしげる。


「誰にも?」

「誰にも」

「意味ある?」

「ある」


「それがな」

「はい」

「自分が消えないための、最後の杭だ」


相談者は黙る。


「いつか」


蓮司は続ける。


「余裕ができたら」

「うん」

「一人にだけ、出してみろ」

「……怖い」

「怖いままでいい」

「……」

「好きはな」

「はい」

「守りながら育てるもんだ」


相談者は立ち上がる。


「今日、好きなもの言わなくてよかった?」

「よかった」

「それでいい」


ドアの前で、相談者が振り返る。


「……まだ、好きなものある気がする」

「気がするで十分」


ドアが閉まる。

廊下の声が、また少し近づいた。

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