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#読み切り
ドアが開く。
「……失礼します」
「どうぞ」
生徒は入ってきて座る。
カバンを足元に置いたあと、少し黙る。
「なんか会話が続かなくて」
日下部は目を向ける。
「話してはいるんですけど」
「うん」
「すぐ終わるんです」
視線が落ちる。
「相手が悪い感じでもないし。
普通に返してくれるんですけど」
少し間。
「そこで止まるというか」
手が少し動く。
「他の人同士だと、そこからどんどん広がってるのに」
短く息を吐く。
「自分だけ、会話が“一本道”で終わる感じです」
「“返答”で止めてるな」
日下部は言う。
生徒は少し顔を上げる。
「……返答?」
「聞かれたことに答えて終わってる」
短く言う。
生徒は黙る。
「でも、それ普通じゃないですか」
「普通」
即答。
「だから止まる」
生徒は止まる。
「会話広がるやつって」
日下部は続ける。
「答えたあと、もう一個置いてる」
生徒は少し眉を寄せる。
「もう一個?」
「情報とか、感想とか」
短く言う。
「“昨日映画見た”だけじゃなくて、“思ったより怖かった”まで置く」
生徒は考える。
「……自分、必要最低限しか言ってないかもです」
「それだと相手も広げにくい。あと」
「はい」
「“正しく返そう”としてる」
日下部は言う。
生徒は止まる。
「……はい」
「正しい返答はできる。でも、引っかかりがない」
短く言う。
生徒は黙る。
「じゃあ、どうすればいいですか」
「少しズレた感想入れる」
「ズレた?」
「“そこ気にする?”みたいなやつ」
短く言う。
「例えば?」
「“体育祭だるかった”じゃなくて、“砂入った靴洗うの面倒だった”とか」
生徒は少し笑う。
「……確かに、そっちの方が返しやすいかもです」
「会話って、情報交換だけじゃない」
日下部は続ける。
「“その人っぽさ”があると伸びる」
生徒はしばらく考える。
「自分、“間違えない会話”しかしてなかったです」
「それだと綺麗に終わる」
短く返る。
生徒は立ち上がる。
ドアの前で止まる。
「広げるのって、話題の問題だと思ってました」
「出し方の問題がでかい」
短く返る。
ドアが閉まる。
会話は、正しく返すだけだと閉じる。
少し余計なものがあると、続きが生まれる。
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