病院を出ると、空はゆっくり茜色に染まっていた。
夕日がガラス窓に反射して、街全体がオレンジのフィルターをかけられたみたいだ。
「ばあちゃん、ほんっと元気だったな」
大地は両手を頭の後ろで組み、足取り軽く歩く。
「元気っていうか……大地以上にテンション高かったぞ」
隼人が笑うと、
「でしょ? ばあちゃんのパワーには俺も勝てねえ」
大地は胸を張った。
商店街のアーケードを抜けると、焼き鳥の匂いが漂ってくる。
「うわ、腹減った。隼人、焼き鳥食べて帰んね?」
「おまえ、病院帰りのテンションじゃないな」
「テンションのスイッチ壊れてるから!」
屋台で買った焼き鳥をほおばりながら、
「隼人もばあちゃんに気に入られてたなあ」
「……ああ。なんか、あったかい人だな」
隼人は串を見つめ、ふっと表情をゆるめる。
大地はにやりと笑い、
「ばあちゃんがさ、俺が落ち込んでるとすぐわかるんだ。
“笑ってりゃなんとかなる”って口癖でさ。
だから俺も笑ってるの。遺伝かな!」
隼人は横目で大地を見つめ、
「……それ、簡単じゃねえだろ」
大地が「え?」と振り返ると、
「誰だって、いつも笑ってるわけじゃない。
でもおまえは、ちゃんと笑える。……すげえよ」
一瞬、大地が言葉を失った。
夕暮れの風が二人の間を吹き抜ける。
「……お、おう。褒められた。うれしっ」
照れ隠しに大地は焼き鳥を一気に食べ、
「ほら次! イカ焼きいこ!」と走り出す。
隼人はその背中を見つめ、
胸の奥がほんのり温かく、くすぐったいまま、
ゆっくり後を追った。