テラーノベル
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俺は、喉の奥に焼けつくような乾きだけを抱えて布団に横たわっていた。朝から晃司、颯馬、怜央菜、沙耶香――いつもの顔ぶれが、俺の体力と意識をじわじわと削るように待ち構えている。飲み物も食べ物も、ここ数日、俺には一滴も与えられていない。
「おはよう、遅刻はなしね」
怜央菜の声は柔らかいけれど、目が笑っていない。俺を見下ろすその視線だけで、喉の乾き以上に胸が詰まる。
「もう……無理だ」
小さく呟く。体がいうことを聞かず、布団にうずくまる俺を、颯馬が足で軽く蹴る。
「無理? 無理なのはお前のほうだろ」
晃司が腕組みし、眉を吊り上げる。
「水も食べ物もなしで、この家で一番下手に出ろってルールだ。従えよ」
沙耶香が俺の横に座り、手で肩を押さえつける。
「どうしても我慢できないなら、ここで舐める?」
彼女は床にこぼれた水滴を指先で弄びながら、笑う。
「……いや……」
その声は、震えとともにかすれて、喉の奥に絡みつく乾きで消え入りそうだった。
怜央菜が布団の端から足を押しつけ、俺の体を少しずつ起こす。
「ほら、動けるでしょ? 動かないと、掃除も洗濯も終わらないんだから」
俺はかろうじて体を持ち上げる。頭がくらくらして、視界が波打つ。
颯馬が肩を軽く叩きながら冷笑する。
「今日もお前の一番の仕事は、奴隷だな。文句は言えない。お前のために用意してるんだから」
俺の喉が、かすかに鳴る。それだけで、みんなが笑った。
晃司が重い箱を手渡す。
「ほら、持て。お前の力で運べる限界まで」
俺は手を伸ばしても、腕が震えて箱を支えきれない。
「……重い……もう……」
呻き声に、兄は苛立ちを滲ませる。
「そんなこともできないのか。お前に期待してるんだがな」
怜央菜が近づき、俺の耳元で囁く。
「無理なら無理で見せてみなよ。泣き顔とか、顔色とか、全部可愛いんだから」
その言葉で、また胸が締めつけられる。涙が頬を伝う。
沙耶香は俺を見下ろし、床に置かれた小さなバケツの水を手で掬い、俺の顔を撫でるようにかける。
「冷たくて気持ちいいでしょ?」
「……いや……やめ……」
声が出るたびに、喉の乾きで咳き込み、体がよろめく。
颯馬が箱をさらに追加し、俺に持たせる。
「動けよ。お前が動かないと、みんな暇でつまんないんだ」
俺は必死に足を踏ん張る。手のひらは汗で滑る。
晃司がそばに来て、低く、突き放すように言った。
「水も食べ物もなし。動け。弱音を吐くな。お前はこの家での最下位だ。理解したか?」
「……は……はい……」
嗚咽交じりで、かろうじて答える。
部屋中に、俺の乾いた息遣いと、笑い声と小突き、指示の声が入り混じる。
数日の水と食料を絶たれ、重い物を抱え、屈辱的な命令に従いながら、俺はただ耐えるしかなかった。
心の奥で、もう何も残らないと感じる。
でも、それでも手を止めることはできない。止めた瞬間、もっと酷い罰が待っていることは、体も記憶も知っているから。
俺の喉はカラカラで、腕も足も震え、涙は止まらない。
それでも――動くしかない。
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