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期末テスト直前。放課後の教室に残って、大地は机に突っ伏していた。
「はぁぁぁぁ……俺、明日からテストとか無理。脳みそにシャッター降りた」
「いつも降りてんだろ」
「おぉ、隼人先生! ぜひ俺に愛の特訓を!」
「勉強って言え」
隼人は大地の机を叩き、参考書を広げた。
「いいか、大地。まず英単語だ。“love”って何だ」
「愛!」
「“marriage”は」
「結婚!」
「……他に覚えろ!」
結局、大地のノートには「隼人=愛」「隼人=結婚」と落書きばかりが並んでいった。
テスト当日。大地は問題用紙を前にしながら、必死に鉛筆を動かしていた。
だが答案用紙には解答以外に、ところどころ変な文字が混ざっていた。
「……“すき”。“けっこん”。……はぁ!?」
隼人はチラッと視線を向け、大地の答案を見て思わず吹き出しそうになった。
「お前、解答じゃなくて告白文書いてんじゃねぇか」
「ち、違う! これは暗号! 俺だけの記憶法!」
「教師に見せられねぇ暗号だな」
監督の先生が近づいてきて、大地は慌てて答案を伏せた。
数日後、答案返却の日。
大地の点数は散々だったが、隼人は答案を見て思わず赤面した。
解答欄の隅に、大地の癖字で小さく書かれていたのだ。
《俺の正解は、隼人》
隼人は答案を握りしめながら、わざと大地を小突いた。
「おい、こんな落書きすんな。バレたらどうすんだ」
「だってさぁ……問題の答えは間違えたけど、俺の心の答えは間違えてないもん」
「……バカ」
大地はにやにや笑って、隼人の肩にもたれかかった。
「なぁ隼人。赤点でも留年でもいいや。俺、お前と一緒に同じ教室にいられるなら、それが一番の正解だ」
「……そうやって真顔で言うな」
隼人は答案用紙をぐしゃぐしゃにしながらも、内心は嬉しさを隠しきれなかった。
教室の窓から差し込む夕陽が二人を照らし、答案に書かれた“隼人”の文字だけが赤ペンよりも鮮やかに見えていた。