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遥の相談室2

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遥の相談室2

83 - 第83話 止まってるだけなのに、置いていかれる

2026年01月13日

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相談室のドアは、今日は少しだけ勢いよく開いた。


入ってきた相談者は、中学生。制服の袖が短く、成長途中の体つきがそのまま表に出ている。


椅子に座ると、相談者はすぐに言った。


「焦ってます」


言い切りだった。

遥は、視線を上げるだけで口を挟まない。


「周りが、どんどん先に行ってる気がして」


相談者は指を組んだりほどいたりしながら続ける。


「部活でレギュラー取ったとか、

テストの順位が上がったとか、

将来やりたいことが決まったとか。

別に、俺が遅れてるって言われたわけじゃないです」


「でも……」


言葉が途切れる。


「何もしてない自分が、すごく目立つ。

頑張れって言われるのも、嫌じゃないんです」


相談者は苦笑した。


「正しいと思うし。

実際、頑張ったほうがいいのは分かってる。

でも、動けない」


遥は静かに言う。


「理由は?」


「分からないです」


即答だった。


「サボりたいわけでもないし、

諦めたわけでもない。

ただ……」


相談者は、胸のあたりを軽く押さえた。


「動こうとすると、重くなる」


遥は少し考えてから言った。


「“止まってる”って思ってる?」


相談者は頷く。


「はい」


「でも実際は、止まってるんじゃなくて」


「?」


「“踏み出す準備が整ってない”だけのこともある」


相談者は首を傾げる。


「それって、逃げじゃないですか」


遥は否定しない。


「逃げに見えることもある。

でも、無理に走ると、あとで壊れる」


相談者は黙った。


「大人はよく言うだろ」


遥の声は低い。


「“今頑張らないと後悔する”って」


「はい」


「でも、“今しか感じられない違和感”を無視すると、あとで後悔する人もいる」


相談者の目が、少し揺れた。


「俺、ダメになってる気がして。

何も結果出してないし。

置いていかれてる感じがする」


遥は、はっきりと言った。


「結果が出てない=ダメ、じゃない。

中学生の時間は、

“積み上がって見えない時期”が長い」


「周りが進んでるように見えるのは、

見える部分だけ見てるから。

見えないところでは、

みんな止まったり迷ったりしてる」


相談者は小さく息を吐いた。


「……でも、俺は何も見せられるものがない」


「見せる必要はない」


遥は即座に返す。


「今は、“保留”の時間でもいい」


「保留……」


「選ばないって選択もある」


相談者は、しばらく黙ってから言った。


「ずっとこのままだったら、どうしますか」


遥は少しだけ視線を落とした。


「その不安があるなら、

完全に止まってはいない」


相談者は驚いたように顔を上げる。


「怖がれるうちは、動く力が残ってる。

本当に危ないのは、

“どうでもいい”って思ったとき」


相談者は、ゆっくり頷いた。


「……俺、焦ってただけかもしれない」


「それに気づけたなら、今日は十分」


相談者は立ち上がり、出口の前で振り返る。


「また、何も決められないまま来てもいいですか」


遥は頷いた。


「決められない時期の話をしに来る場所だ」


ドアが閉まる。


遥は一人になった相談室で、時計を見る。

進んでいるように見える秒針も、実際は同じ速さで刻んでいるだけだ。


止まっているように感じる時間ほど、

人の中では、何かが静かに形を作っている。

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