コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
晃司が鍋いっぱいに新しい熱湯を持って戻ってくると、四人の視線が自然と遥へ集まった。震え、床にすがりつくように這っている姿は、もう人間というより“壊れかけた道具”のようだった。
「じゃあルール決めようか」
怜央菜がにやりと笑う。
「時計の針が一分進むごとに、交代でかけるの。全員が順番にやったらまた最初に戻る。――壊れるまで繰り返し」
「いいね」
沙耶香が頷き、スマホのストップウォッチを起動した。
「制限時間? そんなのいらないか。遥がギブアップするまで、ずっと」
「ギブアップ?」
颯馬が鼻で笑う。
「こいつの“ギブアップ”なんか信用できねえよ。まだ息してる限り続行だろ」
「そうだな」
晃司が鍋を床に置き、腕を組む。
「息止まったら……また蘇生して、もう一回やればいい」
遥の顔は蒼白で、涙と汗で濡れきっている。
「……や、やめて……っ、お願い……ごめんなさい、ごめんなさい……っ!」
「謝るのはいいけどさ、誠意が足りないんだよね」
怜央菜がわざと熱湯を掬い、遥の足先に数滴だけ垂らす。
「――ひっ!! あああっ……!!」
「ね? こんなちょっとでも鳴くんだから。面白い」
一分。
最初の担当は沙耶香。
「じゃあいくよ、背中、残ってるとこ探して……ここかな」
ジョロジョロと音を立てて湯が降り注ぐ。
「ぎゃあああああああああああっっ!!!」
焼ける匂いが立ち上がるたび、全員が笑い声を上げた。
次の一分。
颯馬が腕に。
「動くなよ? 動いたら余計広がるからな」
「やああああああっっ!!」
さらに一分。
怜央菜はわざと顔の横、頬をかすめるように垂らす。
「顔は壊したらつまんないからね。でも跡は残るといいなぁ」
「や、やめ……っっ……ぎっ……!!」
さらに一分。
晃司は黙って鍋を持ち上げ、腰のあたりにたっぷりとかける。
「――――ああああああああああああああああああっっっ!!!!」
ストップウォッチの針が進むごとに、悲鳴と笑いが繰り返される。
「何回耐えられるか数えようぜ」
颯馬が提案する。
「今で……五巡目?」
「記録更新したら褒美やろうよ」
怜央菜が言う。
「褒美?」
沙耶香が笑う。
「“もう一回かけてもらえる権利”とかでしょ」
「ほら遥、記録作れてよかったな。お前のおかげでゲーム盛り上がってるわ」
晃司が冷たく吐き捨てる。
遥は焼けつく痛みに意識が朦朧としながら、ただひとつだけ理解した。
――終わらない。終わらせてもらえない。
その確信だけが、さらに深い絶望を刻んでいった。