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晃司が鍋いっぱいに新しい熱湯を持って戻ってくると、四人の視線が自然と遥へ集まった。震え、床にすがりつくように這っている姿は、もう人間というより“壊れかけた道具”のようだった。


「じゃあルール決めようか」


怜央菜がにやりと笑う。


「時計の針が一分進むごとに、交代でかけるの。全員が順番にやったらまた最初に戻る。――壊れるまで繰り返し」


「いいね」


沙耶香が頷き、スマホのストップウォッチを起動した。


「制限時間? そんなのいらないか。遥がギブアップするまで、ずっと」


「ギブアップ?」


颯馬が鼻で笑う。


「こいつの“ギブアップ”なんか信用できねえよ。まだ息してる限り続行だろ」


「そうだな」


晃司が鍋を床に置き、腕を組む。


「息止まったら……また蘇生して、もう一回やればいい」


遥の顔は蒼白で、涙と汗で濡れきっている。


「……や、やめて……っ、お願い……ごめんなさい、ごめんなさい……っ!」


「謝るのはいいけどさ、誠意が足りないんだよね」


怜央菜がわざと熱湯を掬い、遥の足先に数滴だけ垂らす。


「――ひっ!! あああっ……!!」


「ね? こんなちょっとでも鳴くんだから。面白い」


一分。

最初の担当は沙耶香。


「じゃあいくよ、背中、残ってるとこ探して……ここかな」


ジョロジョロと音を立てて湯が降り注ぐ。


「ぎゃあああああああああああっっ!!!」


焼ける匂いが立ち上がるたび、全員が笑い声を上げた。


次の一分。

颯馬が腕に。


「動くなよ? 動いたら余計広がるからな」


「やああああああっっ!!」


さらに一分。

怜央菜はわざと顔の横、頬をかすめるように垂らす。


「顔は壊したらつまんないからね。でも跡は残るといいなぁ」


「や、やめ……っっ……ぎっ……!!」


さらに一分。

晃司は黙って鍋を持ち上げ、腰のあたりにたっぷりとかける。


「――――ああああああああああああああああああっっっ!!!!」


ストップウォッチの針が進むごとに、悲鳴と笑いが繰り返される。


「何回耐えられるか数えようぜ」


颯馬が提案する。


「今で……五巡目?」


「記録更新したら褒美やろうよ」


怜央菜が言う。


「褒美?」


沙耶香が笑う。


「“もう一回かけてもらえる権利”とかでしょ」


「ほら遥、記録作れてよかったな。お前のおかげでゲーム盛り上がってるわ」


晃司が冷たく吐き捨てる。


遥は焼けつく痛みに意識が朦朧としながら、ただひとつだけ理解した。


――終わらない。終わらせてもらえない。


その確信だけが、さらに深い絶望を刻んでいった。



無名の灯 番外編2

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