テラーノベル
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昼休みの延長みたいな空気のまま、授業が始まる。
誰も席につかない。
立ったまま、笑いながら話している。
教師は来ている。
黒板に何か書いている。
止めない。
それで成立する。
「これ使えよ」
ノートが投げられる。
胸に当たる。
落とす前に、周りが拾って手に押し込む。
開かされる。
最初のページに、もう何か書いてある。
日付。
その下に、
「今日の記録」
字は何人かで書いたみたいにバラバラ。
でも内容は揃っている。
・発言
・遅れ
・無視
・ズレ
雑。
でも分かる。
「お前が書け」
軽く言われる。
命令。
「全部な」
追加される。
「自分で」
そこだけ強調される。
周りは普通に会話を続けている。
昨日の動画の話。
部活の話。
テストの愚痴。
音が混ざる。
その中でだけ、方向が違う。
「はい最初」
誰かが遥の肩を叩く。
「さっきのやつ書けよ」
さっき。
すぐ前のやり取り。
「“いない”って言ったやつ」
逃げた言葉。
それを、残す。
遥はペンを持つ。
手が少し滑る。
書く。
『いないと言った』
「違うだろ」
すぐ横から覗かれる。
笑いながら。
「ちゃんと書けよ」
否定。
「何が違うか分かる?」
質問になる。
遥は少し考える。
「……禁止されてた」
出す。
修正。
「じゃあそう書けよ」
すぐに言われる。
遥は書き直す。
『禁止されてたのに、いないと言った』
一瞬、間。
「被害者みたいじゃん」
笑いが混ざる。
すぐに潰される。
「主語どこ?」
詰められる。
遥は止まる。
主語。
自分。
分かってる。
でも、書き方が分からない。
「……俺が」
出る。
小さい。
「じゃあ書けよ」
遥は書く。
『俺が、禁止されてたのに、いないと言った』
また間。
「順番おかしくね?」
別のやつが入る。
「原因先だろ」
論理にされる。
逃げられない形。
遥は消す。
書き直す。
『禁止されてたのに、俺がいないと言った』
「で?」
続けられる。
終わらせない。
「それで何」
結果。
求められる。
遥は口を開く。
「……叩かれた」
出る。
事実。
「何で?」
すぐに来る。
理由。
遥は少し止まる。
「……ルール守らなかったから」
出す。
整合性を取る。
一番無難。
「じゃあまとめろ」
命令。
遥は書く。
『禁止されてたのに俺がいないと言ってルール守らなかったから叩かれた』
一文になる。
それで終わると思う。
終わらない。
「長くね?」
笑い。
「読みにくい」
軽く言われる。
「もっと分けろよ」
また修正。
遥は書き直す。
その間も、周りは普通に話している。
笑い声。
スマホの動画の音。
全部が混ざる。
集中が削られる。
「はい次」
すぐ来る。
終わらない。
「田中のとこ書け」
さっきのやり取り。
名前を出したやつ。
遥の手が一瞬止まる。
それも見られる。
「止まるなって」
肩を押される。
遥は書く。
『田中がしてる側だと言った』
「違うだろ」
即否定。
「“言った”じゃねえよ」
詰められる。
「何でそうなったかだろ」
原因に戻される。
遥は口を開く。
「……叩かれたから」
出る。
一番近い理由。
「じゃあ田中が原因じゃねえじゃん」
すぐ崩される。
論理で。
「お前が言ったからだろ」
結論を押し付けられる。
遥は止まる。
どっちを書けばいいか分からない。
「どっち?」
聞かれる。
選ばされる。
正解はない。
でも選ばないと進まない。
「……俺が言ったから」
出す。
自分に寄せる。
一番摩擦が少なそうな方。
「じゃあそう書け」
確定する。
遥は書く。
『俺が田中をしてる側だと言った』
「で?」
また来る。
終わらない。
「それで何」
結果。
遥は書く。
『叩かれた』
短く。
「何で?」
また戻る。
ループ。
遥は止まる。
思考が回らない。
「早く」
急かされる。
背中を叩かれる。
「……俺が悪いから」
出る。
一番早い答え。
その瞬間、笑いが少し強くなる。
「便利だなそれ」
軽く言われる。
「じゃあ全部それでいいじゃん」
周りが笑う。
でも止めない。
「書けよ」
命令。
遥は書く。
『俺が悪いから叩かれた』
ページが埋まっていく。
自分の言葉で。
でも、自分の言葉じゃない。
周りの声を通した形。
「はい確認」
ノートを奪われる。
数人で覗く。
笑いながら。
「これさ」
指でなぞる。
『俺が悪いから』
「いいじゃん」
軽い。
でも固定される。
「じゃあ次からそれな」
ルールができる。
「迷ったらそれ書け」
逃げ道の形をした固定。
でも実際は、逃げじゃない。
「あとこれ」
赤ペンが出てくる。
勝手に丸をつける。
『俺が悪いから』
そこだけ囲まれる。
強調される。
「ここ重要な」
教えるみたいに言う。
教師が黒板から振り返る。
一瞬だけ見る。
ノートと、囲まれた文字。
何も言わない。
また書き始める。
それで確定する。
正しい形になる。
「ちゃんと続けろよ」
ノートが返される。
遥の手に戻る。
重い。
紙の重さじゃない。
次の行が空いている。
まだ続く。
「はい次」
声が来る。
普通のトーンで。
後ろでは笑いが続いている。
別の話題で。
関係ない話で。
その中で、
同じペンで、
同じ文字で、
同じ結論を書かされる。
(俺が悪いから)
書くたびに、形が揃う。
考える前に、その言葉が出る。
それ以外を書くと、止められる。
だから、書く。
空いている行を、埋めるために。
コメント
1件
うわ……読み終えて、しばらく息ができなかったです。この「書かされる」感覚、すごくリアルで怖かった。『俺が悪いから』って一文に全部まとめられていく過程が、読んでるこっちの息も詰まらせる。自分で書いたはずなのに、自分の言葉じゃなくなる感じ。周りの笑い声や普通の会話が逆に不気味で、空気の描き方が本当に巧みだなと思いました。続き、遙の心がどうなってしまうのか……気になります。
ちゃちゃまある©️
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