テラーノベル
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※小学生。
その日は、朝から決まっていた。
「一時間目と二時間目、男女で教室分かれます」
担任の声は、事務的だった。
それだけで、クラスの空気が少し変わる。
男子がざわつく。
女子も、小声で固まる。
その瞬間、遥の背中に、はっきりとした悪意が触れた。
「お前、こっち来んなよ」
後ろから、男子の声。
机を蹴る音。
「男だろ」
「……いや、あれ男?」
笑いが起きる。
誰かが言う。
「女子の方じゃね?」
「そっちのが似合うだろ」
遥は、意味が分からない。
(……?)
考える前に、肩を掴まれる。
ぐい、と強く押される。
「ほら、行けよ」
女子の列の方へ。
「女みたいだから」
「間違ってないだろ」
遥は、止まれなかった。
止まる理由を、誰も教えてくれない。
担任は、黒板を見ている。
「……早く移動して」
それだけ。
遥は、女子の教室に入れられた。
扉が閉まる直前、男子の声が飛ぶ。
「許されるまで出てくんなよ」
「反省しろよ」
「自分で分かるだろ?」
分からない。
でも、分からないと言ってはいけないことだけは分かる。
女子の教室は、静かだった。
誰も、最初は何も言わない。
ただ、一斉に視線が集まる。
「……なんでいるの?」
小さな声。
でも、全員が聞こえるように。
「男子でしょ?」
「間違えた?」
遥は、首を振る。
「……あの……」
言葉が出ない。
「喋らなくていい」
「空気悪くなるから」
机が、少しずつ動かされる。
遥の席だけ、端に、端に、追いやられる。
「そこ」
「壁の前」
誰も触れない。
でも、完全に囲まれている。
ノートを出す。
「それ、使わないで」
「あとで消毒するから」
ペンを持つ。
「触った机、後で拭くね」
遥は、手を止める。
(……触っちゃだめ)
休み時間。
誰かが囁く。
「男子に何したの?」
「だから追い出されたんでしょ」
遥は、首を振る。
「……なにも……」
その瞬間、空気が冷たくなる。
「嘘つかないで」
「絶対なにかした」
「悪いことしたからでしょ」
「じゃなきゃ、こうならない」
理由が、後から作られる。
黒板に書かれた課題。
「遥、答え言って」
先生の声。
遥は立ち上がる。
その瞬間、後ろから、低い声。
「謝ってからにしなよ」
何に?
分からない。
でも、全員が見ている。
遥は、小さく言う。
「……ごめんなさい」
それだけで、女子の空気が少し緩む。
「あ、やっぱり」
「悪いことしたんだ」
謝罪は、許しじゃない。
確定だ。
二時間目の終わり。
扉が開く。
男子が、待っている。
「反省した?」
「ちゃんと謝った?」
遥は、うなずく。
「……ごめんなさい」
理由はない。
でも、謝らない選択肢はない。
「は? それだけ?」
「足りねーだろ」
「もう一回」
「ちゃんと」
遥は、頭を下げる。
「俺が悪かったです」
その瞬間、誰かが笑う。
「ほらな」
「やっぱり悪かった」
その日、遥は殴られていない。
怒鳴られてもいない。
でも、確実に刻まれた。
・居場所は、他人が決める
・理由は、後から作られる
・謝ることで、存在が固定される
そして何より、悪いことをしていなくても、“悪い役”をやらされる子がいるということを。
遥は、その役を小学生の頃に、覚えさせられた。
コメント
1件
うわっ…これは…読んでて胸がギュッてなった😭💔 「謝ってからにしなよ」がずっと頭の中に残ってる…だって遥くん何も悪くないのに、謝るしかなかったんだよね…空気で作られた“悪い役”ってほんとにあるんだなって思った。先生も気づいてくれないし、もう無理…しんどすぎる…でもruruhaさん、こんなリアルな空気感を小学生の視点で書けるのすごすぎます🥺✨続きも気になる…!
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