テラーノベル
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※小学生。
男女で教室を分ける、と告げられた瞬間、
遥はもう標的だった。
「お前、そっちだろ」
男子の一人が、遥の背中を強く押した。
肩が机にぶつかり、乾いた音がする。
「男のくせに気持ち悪いんだよ」
「臭いし」
笑い声。
「女子の方が似合う」
「汚ねーもん、同じ空気吸いたくねぇ」
誰かが鼻をつまむ仕草をする。
それが合図みたいに広がった。
「くさ」
「服、洗ってんの?」
「だから嫌われるんだよ」
遥は何もしていない。
でも、否定する前に——
蹴られた。
すね。
軽く、でも確実に。
「動くなよ」
「逃げんな」
もう一発。
今度は太もも。
「女子の教室行け」
「許されるまで戻ってくんな」
押し込まれる。
女子の教室に入った瞬間、
空気が変わる。
「え、なに?」
「なんで男いるの?」
誰かが言う。
「男子に嫌われたんでしょ」
「なんかしたんだよ、絶対」
噂は、理由を必要としない。
「臭いって有名だよ」
「トイレちゃんと行ってないって」
「汚いから男子に捨てられたんだってさ」
遥の耳に、
事実じゃない言葉が事実みたいに積み重なる。
机が離される。
「そこ、来ないで」
「菌つく」
女子の一人が言う。
「ねえ、さっき男子に言われたんだけど」
「遥が謝ったら、許してやるって」
条件が出される。
「ちゃんと土下座しろって」
「それとさ——」
笑いながら。
「床、拭けって」
「汚したから」
遥は首を振る。
「……汚してない……」
その瞬間。
頬を叩かれた。
軽い。
でも、音が教室に響く。
「口答えしない」
「許されたいんでしょ?」
床に座らされる。
雑巾を渡される。
「ここからあそこまで」
「ちゃんと」
遥は、膝をついて拭く。
背中に、蹴りが入る。
「遅い」
「ちゃんとやれ」
笑い声。
「ほら、犬みたい」
「似合うじゃん」
一時間目が終わる。
二時間目も同じ。
途中、女子の一人が言う。
「男子がさ」
「殴られても耐えたら許すって」
遥は、顔を上げる。
教室の外。
廊下に出される。
待っていた男子が、にやつく。
「やっと来た」
一発。
腹。
息が詰まる。
「声出すなよ」
「先生来るから」
もう一発。
肩。
壁にぶつかる。
「まだ」
「許してない」
足。
すね。
「臭いから近づくなって言っただろ」
遥は、うずくまる。
「……ごめんなさい……」
それを聞いて、ようやく止まる。
「最初からそう言えよ」
「反省した?」
うなずく。
「じゃあ、今日だけな」
“今日だけ”。
その言葉が、次があると教える。
教室に戻ると、もう噂は完成している。
「殴られて当然」
「自業自得」
誰も疑わない。
遥は、席に座る。
体が痛い。
でも、それより——
(殴られた理由が、
俺が悪いってことで
もう決まってる)
それが、一番苦しかった。
この日から、遥は知る。
臭いと言われれば、臭いことになる。
汚いと言われれば、汚い存在になる。
殴られれば、殴られる理由が作られる。
そして——
許しには、必ず次の条件がつく。
小学生の遥は、
逃げ方を知らなかった。
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コメント
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みぅです🤍🥀 第15話、読み終わりました…。 小学生で、あの空気の読まれ方、居場所の無さ。男女分けの瞬間に「標的」って表現、すごく刺さりました。何もしてないのに「臭い」「汚い」ってレッテル貼られて、理屈なしに叩かれて…遥くんが「俺が悪いってことで決まってる」って思うところ、本当に苦しかった。 「許しには必ず次の条件がつく」――この一文だけで、どれだけの循環暴力か伝わってくる。ruruhaさんの描写、本当に胸にくるけど、ちゃんと向き合いたい作品です。