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人気の某ラーメン店で働く強面で大男のJさんは元暴力団員。関西地方に勢力を持つ、老舗の組織の末端であったという。正確に言えば組織の一員ではなく、その使い走りだったそうだ。
「要は中途半端なチンピラやね。根性もないし実は喧嘩も弱かったけど、ガタイだけは良かったからビビるやつもいて調子に乗ってたわ」
当時のJさんには金がなく、野良犬のようなその日暮らしだった。
だから兄貴と慕っていた人物に分け前をやるからシノギを手伝えと呼び出された時は二つ返事で応じたという。
「兄貴に頼まれたんは多重債務者を指定された物件まで連行することやった。こらきっと血を見る事になるやろなぁって思ったんやけど……」
物騒な予想とは違い、その物件とは一等地に建つ新築のタワーマンションだった。
その最上階でオーナーらしき男とJさんと多重債務者を待っていた兄貴は
「ご苦労さん」
と短く労い、
「これからそいつは四十九日間、ここで暮らす。その間、一歩も外に出すな。食い物や雑誌はお前が買って来てやれ」
と素っ気なく告げた。
「わけわからんやろ?借金のカタに家取られるならわかるけど。あんなええ場所で暮らせるなら俺も借金したいって思ったわ」
とは言え兄貴分の命令は絶対服従なのが業界の掟。
差し入れも兼ねて一日に二回ほどJさんは様子見を続けた。幸いなことに債務者もタワマンが気に入ったのか、感謝こそすれ不満そうな様子は見せなかった。
「それが十日ほど経つとだんだん様子がおかしくなってきて……」
次第に債務者はボンヤリしていることが多くなった。考え事や寝ぼけている感じではない。素人目にも意識が白濁しているように見えた。
そうかと思えば突然饒舌になってケタケタ笑いだしたり、泣き出したりすることもあった。
不安を覚えたJさんは兄貴にそのことを報告したが返って来たのは問題ないの一言だけだった。
「二十日目を過ぎた頃やったかな。あのオッサン、女言葉で話すようになって……。主人はどこですかとか子供を幼稚園に迎えに行かなきゃとか、やけに具体的で」
薄気味が悪かった。このことを告げると兄貴はニヤッと笑って言った。
「それ、あの部屋で手首を切った女だよ。旦那の浮気を苦にノイローゼになってな。子供を絞め殺しちまったのは心残りだったんだろうな。あのタワマンのあちこちに化けてでるんだと」
困り果てたオーナーに相談を受けた兄貴は昔、ケツ持ちをしていた宗教団体の教祖から教わった除霊を試したのだと言う。
「除霊と言うか……要は幽霊をこれと決めた人間にとり憑かせ建物からつまみ出すねんて。一種の清掃業やって兄貴は言うてたけど……」
それから四十九日が経過し、Jさんはタワマンに債務者の身柄を引き取りに行った。
債務者は最初とは完全な別人となっていた。
虚ろな目を宙に漂わせ口から涎を垂らしながらブツブツ女言葉で訳のわからないことを呟いているオッサンを今度は宗教団体の幹部、まだ若い男女の元へと届けたJさんは
「つい聞いてしもうた。こいつ、この後どないすんのって。そしたらそいつらな、神様のお供え物になってもらいます、本当はもっと若い方が喜んでもらえるんだけどって答えよったんや」
この件をきっかけにJさんは裏の社会から足を洗った。
「あの連中が今どうしてるか?気にならんって言うたら嘘になるけど正直知りたくはないな」
青ざめた表情でJさんはため息をついた。
#異能