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#読み切り
ruruha
656
ゆうまる
121
ファミレスの入口で、遥は一度立ち止まった。ガラス越しに見える明るい照明。
家族連れ、カップル、学生。
普通の夜。
呼び出した張本人が、奥のボックス席から手を振る。
「おっせ。逃げたかと思った」
遥が近づくと、誰かが言った。
「座るなよ」
反射的に、遥は立ち止まる。
「そこ」
指さされたのは、通路側。
椅子の背後。
人が通るたび、肩がぶつかる位置。
「立ち位置、邪魔」
「でもどかすほどでもないから、そのままで」
笑いが起きる。
注文のタブレットが回される。
「遥、取ってこい」
「ドリンクバー」
「俺らの分もな」
「氷多めで。溶けたら不味いから」
遥がうなずくと、追い打ち。
「走るなよ」
「店の迷惑だから」
戻ってくると、すでに一人分足りない。
「あー、それ俺のじゃない」
「作り直して」
「間違えた罰な」
遥は何も言わず、また行く。
戻る途中、別の席から声。
「なにあれ。立たされてる」
「仲間? 違うでしょ」
聞こえる距離。
わざと。
席に戻ると、料理が来ている。
「それ置いて」
「いや、そっちじゃない」
「向き逆」
「触んな、まずくなる」
遥の手が止まる。
「ほら、早く」
「使えねぇな」
誰かが食べ始める。
「遥、ナプキン」
「あと、取り皿」
「箸落ちた」
「拾って」
床に落ちた箸。
踏まれたあと。
「洗ってくれば?」
「衛生観念ある?」
洗って戻ると、また言われる。
「遅い」
「もういいわ」
「そこ立ってろ」
「食う気? あるわけないよな」
笑い声。
「だってさ、呼ばれただけだもんね」
「来たくて来たわけじゃない。でも来た」
「つまり。文句言う資格なし」
誰かがグラスを倒す。
「うわ」
「最悪」
視線が一斉に遥へ向く。
「……お前、ぶつかっただろ」
「今の見た?」
遥は首を振る。
「違う。触ってない」
即座に返る。
「言い訳」
「立ってるから邪魔なんだよ」
「ほら拭け」
「床も、テーブルも」
拭きながら、耳元で囁かれる。
「公共の場でこれ」
「家だったらどうなってたと思う?」
「感謝しろよ」
「まだ“静か”な方」
会計の時。
「遥、まとめて払っといて」
「あとで返すから」
返す気は、最初からない。
外に出ると、最後に言われる。
「また呼ぶわ」
「ファミレス便利だな」
「座らせなくていいし」
「使わせやすい」
笑いながら、解散。
遥だけが、その場に残る。
(……普通の場所でも)
(俺は、普通に扱われない)
明るい看板が、やけに眩しかった。
コメント
1件
ファミレスという“普通の場所”でこれだけの空気を描けるの、すごいなと思いました。座らせず、わざと聞こえる距離で追い打ちをかける。その一つひとつが「日常に溶け込んだ暴力」で、読んでいて胸が締め付けられました。特に最後の「使わせやすい」の一言が効いてますね…。遥がどんな育ちや関係性を経てここに立っているのか、想像せずにはいられません。続きが気になります。