テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
カラオケ。
受付を通った瞬間、もう決まっていた。
「遥は中入んな」
「廊下で待機」
個室のドアが閉まる。
中から音楽と笑い声。
外は薄暗く、壁にもたれるしかない。
通りがかった店員が一瞬見る。
何も言わない。
ドアが急に開く。
「おい、邪魔」
胸を押され、壁にぶつかる。
鈍い音。
「立ってろって言っただろ」
腹に一発。
力は抑えてある。
倒れない程度。
「声出すな」
「歌聴こえねぇ」
蹴りが太腿に入る。
バランスを崩して膝をつくと、すぐ引き上げられる。
「座るな」
「床汚れる」
(……倒れるな。倒れたら、もっとやられる)
ドアの隙間から、楽しそうな歌声。
自分の名前が、ネタみたいに混じる。
「サビ行く前に一発な」
笑いながら、背中を殴られる。
(ここは公共の場所。誰か来る。でも、来ても……)
何も起きないのを、もう知っている。
駅。
人の流れに押し出される。
「歩幅合わせろ」
「遅い」
肩を掴まれ、引き戻される。
「離れんな」
「迷子かよ」
ホームで、背中を蹴られる。
前につんのめる。
「落ちんなよ」
「ニュースになると困るから」
笑い声。
電車が来る風。
冷たい。
「寒い?」
「薄着だな」
「自己管理できない奴は、管理される側なんだよ」
腹に肘。
息が詰まる。
(ここで倒れたら“邪魔”になる)
必死に立つ。
「ほら見ろ」
「殴られても立ってる」
「丈夫」
「使える」
(……使う? 人を?)
コンビニ。
明るさが、逆に残酷だった。
「買ってこい、人数分」
「箸忘れんなよ」
「袋は分けろ」
戻ると、袋を奪われる。
「遅い」
「冷める」
腹に一発。
レジ横で。
「カメラあるから、軽くな」
軽く、でも確実に。
「外行け」
裏口。
壁に押し付けられる。
「さっきの駅でさ。顔、歪んでた」
「嫌そうだったな」
胸ぐらを掴まれる。
「嫌ならちゃんと言えよ」
遥は、声を出す。
「……やめろ。俺は……」
言い切る前に、頬を殴られる。
「はい失格。口答え」
蹴り。
脇腹。
「抵抗するから、余計に酷くなる」
(違う。同意してないって。それだけなんだ)
でも、言葉は届かない。
「ほら。黙った」
「結局、これが正解なんだろ?」
遥は、歯を食いしばる。
(俺が悪いって思わないと、壊れる)
(でも、それでも)
(殴られていい理由には、ならない)
誰も聞いていない中で、
遥だけが、その考えを抱え続けていた。
コメント
1件
第35話、読み終えました……。カラオケの楽しげな歌声と、外で行われる暴力の温度差が、読んでいて本当に苦しかったです。遥くんが「殴られていい理由には、ならない」って心の中で叫んでいるのに、周りには届かないもどかしさ。彼の必死に立つ姿に、胸がぎゅっとなりました。この先、誰かに届いてほしいと切に願います。