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五日前の合同確認は、しずくシェルターの中も外も人でいっぱいだった。屋台班が鍋や板を運び込み、照明班が延長線の長さを測り、ホレは紙束を片手に全員の名前を呼んでいる。
「モルリ、鍋は入口の右。サベリオ、その台車はまだ使う。ジャスパート、灯りの試し点灯は三時から」
「はいはい、今行く」
「返事だけ早い人が二人いる」
ホレが目も上げずに言うと、モルリとサベリオは顔を見合わせて吹き出した。
昼を過ぎたころ、空がにわかに暗くなった。さっきまで白かった雲が灰色の筋を引き、風がひやりと変わる。
「来るよ」
デシアが言った直後、雨が落ちた。
最初は粒の大きな数滴。次に、屋根を細かく叩く連なった音。通り雨だ、と誰かが叫ぶ。たちまち中は大騒ぎになった。布をしまえ、紙を上げろ、線を踏むな。モルリは鍋に布をかぶせながら笑い、ミゲロは両腕いっぱいに箱を抱えて走る。
サベリオも入口の木箱を持ち上げ、濡れそうなものを奥へ寄せた。ところがその途中で、デシアが外の軒先に立ち止まっているのが見えた。
「何してるんだ、濡れるぞ」
駆け寄ると、彼女はうれしそうに目を細めていた。
「聞いて」
「いや、雨だろ」
「そう。でも今日は屋根で三つに分かれてる」
よく聞けば、たしかに違った。古い金属板を打つ高い音、木のひさしを叩く丸い音、端の割れ目から落ちる、ぽたり、ぽたりという遅い音。シェルターは同じ雨を、場所ごとに別の声で受け止めていた。
デシアは録音機を順番に向ける。その横顔は楽しそうで、サベリオはあきれ半分、感心半分で見ていた。
「普通、雨が降ったら困るんじゃないの」
「困るよ。でも、困る音と好きな音が同じ日にも鳴るの、少しすごくない?」
そう言って彼女は笑った。
通り雨は長く続かなかった。十分ほどで空が明るくなり、シェルターの前の石畳にだけ、細かい水玉が残った。
中へ戻ると、ジャスパートが濡れたコードを不満そうに持ち上げている。ホレはすでに点検の順番を書き直していた。モルリは「雨でも腹は減る」と言って皆に焼き菓子を配り始める。
その騒ぎの中で、デシアだけが録音機の波形を見つめていた。
「いいのが録れた?」
サベリオが聞くと、彼女は頷いた。
「うん。しずくの音が、思ったより主役かもしれない」
「主役」
「満月の夜、晴れなくても、春は鳴るってこと」
その言葉を聞いたとき、サベリオはなぜか少し安心した。雨は祭りを困らせるだけのものだと思っていたのに、彼女の目には別の形で映っている。
春をつくる音は、晴れた日のものだけじゃない。
通り雨が去ったあとも、その発見だけはシェルターの中に残っていた。
#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
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