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四日前の夕方、しずくシェルターの長机には、紙コップと走り書きの案が散らばっていた。祭りの余興について話し合うために集まったはずが、ヌバーが仕切ると大体こうなる。
「橋の上からさ、本音を叫ぶ時間を入れたいんですけど」
「急に雑だな」
アルヴェが眉をひそめると、ヌバーは胸を張った。
「雑じゃないです。祭りって、少しだけ人生に大声を出していい日じゃないですか」
「その理屈で通ると思うなよ」
けれど周りは、わりともう面白がっていた。モルリは「恋の告白もあり?」と身を乗り出し、ミゲロは「親への文句なら山ほどある」と笑う。ハルティナは名簿用の紙を用意し始め、参加したがりそうな若者の名前を次々書き込んでいった。
「名前はどうするの」
誰かが聞くと、ヌバーは得意げに言った。
「未成年の主張みたいなやつ、でどうです」
「みたいなやつ、まで含めて雑」
ホレが即座に切り捨てたが、場にはもうその呼び名が広がっていた。
サベリオは壁に寄せた脚立を畳みながら、そのにぎやかさを見ていた。デシアは少し離れた席で、参加者の声をどう録るかメモを取っている。笑える叫びだけでなく、息をのむ前の沈黙や、言葉の終わりの震えまで拾うつもりらしい。
「本当にやるの?」
サベリオが聞くと、デシアは小さく頷いた。
「たぶん、町の音って、自然の音だけじゃ足りないから」
「人の声も?」
「うん。言えなかったことが出る瞬間の音、好き」
その答えに、サベリオは少しだけどきりとした。自分はそんな瞬間の音を、聞かれたくない側の人間かもしれないと思ったからだ。
そこへ、書類の束を抱えたニカットが遅れて入ってきた。机の上の案を見て、数秒だけ黙る。
「橋で拡声器を使うなら追加申請が必要です」
場がしんとした。
「録音機材の増設も。夜間使用の灯りも。観客の立ち位置が変わるなら導線も出し直しです」
ヌバーが口を尖らせる。
「ええ。今の勢い、止めます?」
「止めたいんじゃなくて、通したいんです」
ニカットは机に書類を並べた。
「筋を通さないと、当日ぜんぶ止まります」
空気が少しだけ現実に引き戻される。けれど誰も完全にはしぼまなかった。ハルティナが「じゃあ集める人員は私がやる」と言い、ホレは必要物資を書き直す。アルヴェも腕を組んだまま、否定はしなかった。
サベリオはその様子を見て、祭りは一人のひらめきだけではできないのだと改めて思った。笑い声の裏で、誰かが書類を書き、誰かが順番を整え、誰かが危ない場所を先に見つける。
デシアは窓際で、若者たちの試しの叫びを録っていた。
「将来の俺、逃げるなー!」
外から聞こえた声に、シェルターの中がどっと笑う。
その笑いの真ん中で、サベリオはふと考えた。
自分なら、橋の上で何を叫ぶだろう。
答えは、まだ喉の奥でつかえたままだった。
#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
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