テラーノベル
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ドアを開けた瞬間、拍手が起きた。
軽い、揃ってない拍手。
「おかえりー」
誰かが言う。
笑いが混ざる。
逃げたことが、もう“ネタ”になっている。
席に行く前に、止められる。
「先にこっち」
教室の後ろ。
机がどかされて、空間が作られている。
昨日まではなかった配置。
もう“準備されている”。
円の外に立たされる。
中じゃない。
外。
「今日からさ」
中心にいるやつが言う。
「順番ね」
紙を見せる。
名前が並んでいる。
クラスだけじゃない。
隣のクラスの名前も混ざってる。
「一日一周」
笑い。
「公平だろ?」
誰かが肩を押す。
円の中に入る。
逃げ場はない。
教師が入ってくる。
一瞬だけ、空気が整う。
でも、円は崩れない。
「席つけ」
教師は言う。
誰も動かない。
一拍。
教師は、ため息をつく。
「……早くしろ」
それだけ。
注意じゃない。
“進行を急がせる声”。
一人目が出る。
腹に一発。
乾いた音。
「はい次」
軽い。
ゲームみたいな声。
二人目。
角度を変える。
三人目。
少し強い。
四人目。
間を置く。
呼吸が戻りかけた瞬間に入れる。
笑いが起きる。
「今の良くね?」
評価が入る。
順番は止まらない。
列が崩れない。
教師は黒板を向く。
チョークの音が続く。
一発ごとに、音が混ざる。
消されない。
消そうともしない。
五人、六人、七人。
数えるのが意味を失う。
途中で、ルールが増える。
「顔は軽めな」
「跡残るとめんどいし」
笑い。
でも、守られない。
頬に当たる。
視界が揺れる。
「おい」
教師の声。
一瞬止まる。
全員が見る。
教師はこっちを見ない。
「静かにしろ」
それだけ。
再開。
さっきより静かに、同じことが続く。
一周終わる。
終わりじゃない。
「二周目は強さ上げてく?」
誰かが言う。
賛同。
教師は何も言わない。
チャイムが鳴る。
「はい休憩」
笑い。
ion⚡️
2,270
のつち らいら
ゆーちゃん@ペア画中
169
席に戻る。
座ると、背中が痛む。
さっきの一発じゃない。
重なっている。
どこがどう痛いのか分からない。
ただ、全部が鈍く残っている。
二限。
ノートを取ろうとすると、手が遅れる。
ペンを握るだけで、腕が引っかかる。
隣が覗き込む。
「動き遅くね?」
笑う。
「昨日より効いてるじゃん」
言葉が、評価になる。
三限。
黒板に呼ばれる。
歩く。
足取りが変わっているのが分かる。
ざわつき。
「分かりやす」
教師が一瞬見る。
目が合う。
すぐ逸らされる。
「早くしろ」
それだけ。
書く。
チョークが折れる。
力が入らない。
「手、震えてんぞ」
後ろから声。
笑い。
戻る途中、肩をぶつけられる。
バランスを崩す。
踏みとどまる。
「倒れんなよ」
“まだ続く”前提の声。
昼。
シャツに触れると、痛い。
布越しでも分かる。
熱を持っている。
触れなくても、そこにある。
視線が集まる。
誰も直接は言わない。
でも、全員知ってる。
「見える?」
小声。
「分かる分かる」
笑い。
午後。
体育。
着替え。
服を脱ぐ動きが止まる。
一瞬。
でも、後ろから押される。
「早くしろって」
ロッカーの影。
誰かが覗く。
「うわ」
声が漏れる。
隠さない。
「マジでついてんじゃん」
笑いが広がる。
「どんだけやったんだよ」
数を誇る声。
自分の“順番”を思い出してるやつがいる。
「俺、ここ」
指差す。
確認し合う。
成果みたいに。
教師が入ってくる。
一瞬、静かになる。
でも視線は残る。
教師の目が、こちらをかすめる。
止まる。
ほんの一瞬。
それで終わり。
「さっさとしろ」
いつも通りの声。
見て、流す。
それが一番効く。
放課後。
また円ができる。
今度は人数が増えている。
「今日の追加」
紙が増えている。
名前が書き足されている。
「見学者も参加OKにした」
笑い。
ルールが増える。
逃げ道は減る。
「昨日逃げた分、まだ足りねえし」
誰かが言う。
納得する空気。
理由は何でもいい。
続けるための理由に変わる。
一発目が入る。
さっきより重い。
体が揺れる。
「お、いいね」
評価。
順番が回る。
止まらない。
帰り道。
歩き方が変わっているのが分かる。
誰にも言われない。
でも、見れば分かる。
次の日も、同じ。
紙はまた増える。
ルールも増える。
順番は固定される。
逃げたことは、もう関係ない。
ただの“起点”だ。
残るのは、
消えない痕と、
それを数えている他人の記憶。
コメント
1件
うわ……読んでて息が詰まった。教室の空気が重くて、逃げ場がどんどん狭まっていく感覚がリアルだった。特に教師が“見て流す”シーン、あれが一番怖い。制度としての無関心が、加害を許してる構造になってる。痕だけが残って、他人の記憶の中で“数えられる”存在になる終わり方も、救いがなくて胸に刺さった。次、どうなっちゃうんだろう…