相談者は、ドアを閉めてから一度だけ深呼吸した。
椅子に座る動きが、少し硬い。
「今日は慎重だな」
蓮司が言う。
「話す内容が、あんま安全じゃない」
「ここでは?」
「……多分」
蓮司は頷くだけだった。
「学校でさ」
「うん」
「相談したんだよ」
「誰に」
「友達。先生。先輩」
「フルコースだな」
相談者は笑わない。
「結果」
「うん」
「全部、回った」
「広まった?」
「形変えて」
蓮司はペンを回す。
「どんな形」
「心配。忠告。冗談。正義感」
「全部違う顔して、同じ中身だな」
相談者は頷いた。
「俺が言ってないことまで、追加されてた」
「情報が育つ環境だ」
「怖い」
相談者は小さく言う。
「相談しただけなのに」
「したな」
「助けてって言っただけなのに」
「言った」
少し間が空く。
「なあ」
蓮司が言う。
「その集団」
「うん」
「秘密って概念、あると思う?」
相談者は即答しなかった。
「……ない」
「正解」
蓮司は淡々と言う。
「問題は解決される前に、共有される」
「共有いらない」
「でも回る」
「なんで」
「管理したいから」
相談者は眉をひそめる。
「管理?」
「不安な要素」
「俺が?」
「そう」
「危険人物みたい」
「扱いは近い」
相談者は息を吐く。
「相談した瞬間」
「うん」
「俺、観察対象になった」
「タグ付け完了」
「タグ?」
「弱ってる。要注意。触ると面倒」
相談者は苦笑した。
「助けるって何だよ」
「安心させることじゃない」
「じゃあ?」
「コントロール」
蓮司はそう言い切った。
「怖いこと言うな」
「仕組みの話」
相談者はしばらく黙る。
「じゃあさ」
「うん」
「相談しない方がいい?」
「場所による」
「ここは?」
「回らない」
「なんで」
「俺、管理しないから」
「無責任じゃん」
「責任取らされないだけ」
相談者は少し笑った。
「先生は?」
「情報が仕事になる人もいる」
「先輩は?」
「善意で回す」
「友達は?」
「ノリで回す」
相談者は頭を抱えた。
「全部最悪」
「悪意は薄い」
「余計たち悪い」
蓮司は頷く。
「だから」
「?」
「相談は、渡す量を決める」
「量」
「全部言わない」
「半分?」
「三割」
相談者は驚く。
「少な」
「十分」
「足りなくない?」
「足りないくらいが、ちょうどいい」
蓮司は続ける。
「深刻さは、段階的に出す」
「一気に出すと?」
「燃料になる」
「燃料……」
「噂のな」
相談者は黙る。
「俺さ」
「うん」
「もう誰にも言わない方が安全?」
「言う場所を減らす」
「ゼロじゃなく?」
「ゼロにすると、内側で増える」
相談者は小さく頷く。
「ここでは?」
「ここでは」
蓮司は少し考えてから言う。
「情報にならない言い方で、吐いていい」
「どういう」
「感情だけ」
「事実は?」
「少しずつ」
相談者は立ち上がる。
「今日」
「うん」
「俺、名前も具体例も出してない」
「気づいた」
「それでいい?」
「それが安全」
ドアの前で、相談者が振り返る。
「なあ」
「なに」
「相談ってさ」
「うん」
「助けを求める行為だと思ってた」
「多い勘違い」
「じゃあ?」
「取扱説明」
相談者は少し考えて、笑った。
「難しいな」
「だから皆、壊す」
「……」
「壊さない選択、してるだけ」
ドアが閉まる。
相談は、刃にもなる。
でも扱い方を知っていれば、
自分を守る道具にもなる。






