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教室の空気がざらついているのを、肌で感じていた。
数日が経っても、俺たちはまだ“見世物”のままだ。いや、時間を置いたぶん、連中は余計に仕掛けを練ってきたようだった。
「おい、また並べ。昨日と違うやり方でいくぞ」
誰かの声に、机を蹴る音が重なった。前に出ろと顎で示され、俺と日下部は視線を逸らしたまま立たされた。背中越しに聞こえる笑い声。張りつくような視線。
(また始まる……)
数日前の光景が頭に浮かぶ。俺が口を割ったあの日。日下部の目が、冷たく逸らされたあの瞬間。
あれ以来、俺はどう声をかけていいか分からなかった。謝っても言い訳しても、結局は同じことを繰り返すだけだと思うから。
一方で、日下部は以前のように俺を庇おうとはしなくなった。黙っている。拒絶も怒鳴りもしない。ただ静かに、すべてを飲み込むように突っ立っている。
(俺を信じてないんだ……当然だ。裏切ったんだから)
「なぁ、こいつらやっぱ“ペア”じゃないと映えねえな」
「そうそう。片方だけじゃつまんねぇ。セットじゃないと」
机に押しつけられた手の甲がじんじんと痛む。日下部も横で同じように押さえ込まれていた。強引に姿勢をそろえさせられ、まるで双子の人形のように扱われる。
笑い声が飛び交う中、誰かが耳元で囁いた。
「なぁ遥、お前、また“親友の秘密”言ってみろよ。今度は何だ?」
喉がひりつく。心臓が暴れる。
(もう何も言わない……二度と……)
言葉にしようとすれば、日下部の横顔がちらつく。冷えた目。逸らされた視線。
――そのとき。
「やめろ」
低い声が空気を切った。日下部だった。
一瞬、周囲がざわついた。
怒鳴りではなかった。抵抗でもない。ただ、腹の底から出た一言。
「……もう、いいだろ」
力なく吐き出された声。その背に、俺は衝撃を受けた。
怒っていない。責めてもいない。ただ、諦めに似た響きだった。
(俺は……もう、守られてないんだ)
胸の奥がひび割れるように痛んだ。
自分が壊したものは、もう二度と戻らない。
守りたいと願った相手を、逆に切り裂いてしまった。
「仲良し演技も板についてきたじゃん」
「いいねぇ、次はもっと派手にやってもらおうか」
笑い声が再び弾む。加害者たちは俺たちを弄ぶための“新しい遊び”を考えている。
けれど俺の耳には、その騒ぎよりも隣の沈黙が重く響いていた。
日下部は、もう俺を見ない。
俺は、もう言い訳もできない。
(また……間違えた)
内臓を握りつぶされるような自己嫌悪に、視界が滲んだ。