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ファイルの紙質は、少しだけ古かった。
真琴は机に広げたコピーを一枚ずつめくりながら、その違和感を言葉にしないまま追っていた。
インクの乗り方、ホチキスの位置、余白の幅。
どれも「きちんと」している。きちんとしすぎている。
「……これさ」
燈が椅子を揺らしながら、顎で資料を指す。
「事故処理にしては、揃いすぎじゃね?」
「揃ってるのが悪いって、変な話だけどね」
玲は淡々と答えつつ、別の束を引き寄せた。
「でも、確かに癖がある。
報告書の書式、三件とも同じ人間が整えたみたい」
「同じ人が書いたってこと?」
澪が顔を上げる。
「書いた、というより……」
玲は少し考えてから言い直した。
「直した、かな」
その一言で、空気がわずかに変わった。
真琴はファイルを閉じ、机に指を置く。
「現場の警官が書いた一次報告を、
あとから“事故として成立する形”に整えてる」
「それ、普通じゃないの?」
「普通なら、もう少し粗が残る」
玲はページの端を指で叩いた。
「感情語が全部削られてる。
“不可解”“不審”みたいな単語が、一度も出てこない」
燈が鼻で笑う。
「優秀だな。優秀すぎる」
その言い方は、褒めていなかった。
真琴は少しだけ黙ってから、ぽつりと言う。
「事故ってさ、もっと雑になるよね」
誰も否定しなかった。
偶然、運、不可抗力。
そういう言葉で片づけるときほど、記録は荒れる。
なのにこの資料は、迷いがない。
「事故だと決めた人間がいる」
澪の声は小さかったが、はっきりしていた。
「しかも、その人は……慣れてる」
そのとき、探偵社のドアが軽くノックされた。
「……開いてるよ」
真琴が答えると、木津が顔を出した。
「邪魔だったか」
「ちょうどいいとこ」
真琴は顎で机を示す。
「これ、誰が最終チェックしたか分かる?」
木津は一瞬だけ視線を泳がせ、資料に目を落とした。
「……そこまで残らない」
「でも、いるよね」
真琴は言い切った。
「“整える役”」
木津はすぐには答えなかった。
代わりに、ため息ともつかない息を吐く。
「昔から、そういう部署はある」
「部署?」
「正確には……人、だな」
その言い方が、過去形に近かった。
玲が静かに続ける。
「この手の処理、他でも見たことあります?」
木津は、少し間を置いてから頷いた。
「ある」
「似た形で?」
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さつまいも

「……ああ」
真琴はそれ以上、踏み込まなかった。
踏み込めば、何かが決定的に変わる気がしたからだ。
代わりに、軽く肩をすくめる。
「じゃあ、今回はここまでにしよ」
燈が目を細める。
「珍しく引くな」
「引くんじゃない」
真琴はファイルを揃え、箱に戻した。
「置いとくだけ」
澪が小さく頷いた。
「置き方も、大事ですから」
木津はそのやり取りを、少し複雑な顔で見ていた。
「……深入りしないほうがいい」
低い声だった。
真琴は笑う。
「それ、忠告?」
「警告だ」
「ありがと」
あっさりした返事に、木津は拍子抜けしたように瞬いた。
真琴はドアの方を見る。
「でもさ。
忠告されるってことは――」
一拍、間を置く。
「もう、入り口には立ってるってことだよね」
木津は何も言わなかった。
よはく探偵社の午後は、静かに過ぎていった。
けれど、机の引き出しの奥で、
“使われなかった違和感”だけが、確かに息をしていた。