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四時間目が終わるチャイムが鳴った瞬間、教室の空気が変わった。
授業中の“静けさ”が剥がれ落ち、いじめの場としての素顔がむき出しになる。
「はい、昼の“配置”ね。遥、あんたは今日そこで」
指示された場所は――教室の後ろ、ロッカーと壁のあいだの細い隙間。
人ひとりが立つのも窮屈な三角形のスペース。
逃げられないように丁度いい、と決めたのも生徒たちだ。
「てかさ、“無音係”なんだから、そこなら声も出せないでしょ? 便利じゃん」
男子が笑い、女子がそれに追随する。
遥は壁に背を押しつけられたまま、動かない。
“昼食をとる”という選択肢は、このクラスでは彼には存在しない。
「おい、これ。今日の分」
誰かが弁当箱を無造作に押しつけてきた。
開けると、中身は――全員が食べ残したものを適当に詰めた残飯。
米に混じった歯形の残るウインナー、口をつけた飲み残しの果汁、湿った唐揚げ。
「残飯処理係なんだし、ありがたく食えよ。ほら、無音で」
“拒否”という概念は許されない。
一口でも食べなければ、“反抗”として処罰対象になる。
遥は、喉が閉じる感覚に逆らいながら、端っこだけを噛む。
その小さな動作すら、監視されている。
「ねぇ、噛むの遅くない? 仕事できない奴って感じ」
「てか、食べ方きも……ほら、これもやっといて」
女子が自分の飲み残したストロー付きパックを押し込み、男子が机の上のゴミを投げる。
遥の足元に積もる、誰かの捨てた昼食の残骸。
“掃除”という名の役割。
掃除道具は渡されない。
遥自身が“ゴミ箱として扱われる”ことが、役割の本質だった。
「……あ」
ひとりの女子が、わざと大きく声を出した。
「今、息する音、ちょっと大きくなかった? 『無音』じゃないよね?」
囁き声でもなく、普通の呼気でもなく、ただ“呼吸の音”だった。
それすら罰則の理由になる。
「じゃあ放課後、確定だな。“補修”。逃げんなよ?」
補修――午前中に言われた“メンテナンス”の別名。
クラス全員が見て見ぬふりで維持している、残酷な儀式。
昼休みの終わりまで、遥は壁に立ったまま動けなかった。
足がしびれても姿勢を変えることすら許可制。
許可を求めれば、それがまた“声を出した”として罰になる。
だから、ただ耐えるしかない。