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昼休み、教室の隅。何かを期待したわけではない。最初から、その椅子に座ることさえ間違いだったのかもしれない。
「え、ちょっと、なに勝手に混ざってんの?」
背後から、乾いた声。笑いを含んだ、けれど刃を隠さない声。
遥はゆっくり顔を上げる。机の上に置いたパンの袋を、指で無意識に握りしめていた。
「ごめん、空いてたから……」
「は? キモ。空いてても、お前の席じゃないし」
椅子を蹴られる。わずかに傾いた体を支えるように机に手をついたが、その手の甲を見て、誰かが笑った。
「うわ、まだ痕残ってんじゃん。なにそれアピール? やってません、みたいなフリして」
「ねー、みんなもう無理って言ってたよ? 遥がいると雰囲気悪くなるって。てかさ、顔、無理」
「目もキモい。なんか……ずっと見てくるの怖くない?」
誰かがつぶやき、笑いが連鎖する。空気が、音を立てずに閉じていく。遥は何も言わない。ただ、背筋を丸めて立ち上がった。パンはそのまま、机に置いたまま。
誰も、目を合わせようとしなかった。けれど、全員が「自分は関係ない」と言いたげな沈黙で、その場を完成させていた。
廊下に出た瞬間、背後でドアが閉まる音がして、それがやけに遠く感じられた。