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日下部の相談室2

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日下部の相談室2

63 - 第63話 何が嫌なのか、自分でも分からない

2025年12月18日

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相談室のドアは、少しだけ迷ったあとに開いた。

日下部はその音で顔を上げる。


「……どうした」


相手は一瞬立ったまま黙ってから、椅子に座った。


「何が嫌なのか、分かんない」


唐突だったが、日下部は驚いた顔はしなかった。ノートを閉じ、机の端に置く。


「分かんない、って?」


「理由が思いつかない。学校も、家も、別に普通で」


「普通、か」


日下部はその言葉をなぞるように小さく繰り返した。


「でも、なんかずっと気持ち悪い。楽しくもないし、しんどいってほどでもない」


「……曖昧だな」


「うん」


自覚があるのか、相手は苦笑した。


「だからさ、これって甘えなのかなって思って」


日下部はすぐには答えなかった。

窓の外を一度見てから、視線を戻す。


「甘えだと思うなら、ここ来ないだろ」


「……そう?」


「本当にどうでもいいなら、放っとく」


相手は少し驚いたように目を瞬かせた。


「じゃあ、この感じって……」


「嫌なんだろ」


「でも理由が」


「理由なく嫌になることもある」


日下部は言い切るでもなく、淡々と続けた。


「体調悪いときだって、原因分からないまましんどいことあるだろ」


「あるけど」


「それと似てる」


相手はしばらく黙り込んだ。


「……じゃあ、どうすればいい」


「無理に理由つけない」


「それだけ?」


「それだけじゃない」


日下部は少し言葉を選んでから言った。


「分かんない状態を、悪いもんだと思わないでいればいい」


「簡単に言うな」


「簡単じゃない」


すぐに返した声は、少しだけ強かった。


「分からないまま抱えてるの、結構しんどい」


相手は視線を落とす。


「……ずっと、何か間違ってる気がしてた」


「間違ってるかどうかは知らない」


「即答?」


「即答」


日下部は小さく肩をすくめた。


「でも、違和感あるのに“平気なふり”してる方が、あとで響く」


「……」


「嫌だって感覚は、ちゃんとしたサインだ」


相手は息を吐いた。


「理由なくても?」


「なくても」


「分かんなくても?」


「分かんなくても」


沈黙が落ちる。

さっきより、少しだけ重さが抜けた沈黙だった。


「……また来ていい?」


「来るなとは言ってない」


「それ、許可?」


「必要ならな」


相手は立ち上がり、ドアに手をかけてから振り返る。


「ありがと」


「別に」


ドアが閉まる。

日下部はしばらくその音の余韻を聞いてから、ノートを開いた。


理由が分からないままの感情は、置き去りにされやすい。

それを拾いに来る場所であればいい、と彼は思っているだけだった。


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