テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
教室に入るたびに、空気が変わるのがわかる。重く、濁った目線が、一斉に遥に突き刺さる。
「うわ、また来た。……まだ辞めないんだ」
「教師の前だと猫かぶってるからな。ああいうのが一番気持ち悪いんだよ」
廊下ですれ違うとき、わざと肩をぶつけられ、机には――
《処分して》《お前の席じゃない》《飼育室に帰れ》
とマジックで書かれたメモが貼られるようになった。
ある日、遥の鞄が中身ごと破られていた。
中から出てきたのは、知らないキャラクターの生理用ナプキンと使用済みのティッシュ。
誰かが囁く。
「女だったんだっけ?てか、もう“どっち”でもないか」
――男子も女子も、その瞬間だけは仲がいい。
服の背中にはチョークで「便所」と書かれ、気づかずに一日過ごさせられる。
体育の着替えはロッカー室に押し込まれ、スマホのカメラが向けられる。
教師は、「やる気がないなら出なくていいよ」とだけ言って目を逸らした。
遠くから聞こえる声。
「でもさ、ああいう奴ってさ、殴ったら気持ちよさそうじゃね?」
「どうせ感じるんじゃない?ああいう顔してるし」
「ていうかさ、もう“モノ”でよくない?人扱いすんの疲れるし」
教室は、完全な無風地帯だった。誰も止めないし、誰も助けない。
助けたら、次は自分が「それ」になるだけだと、全員が知っていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!