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教室に入ると、すぐに視線が集中する。遥の席の周囲には、昨日までのことを知っているかのような小さな笑みや、嘲るような目が巡らされている。誰も声には出さないが、指先や肩越しの視線が、遥の存在を完全に支配していた。
「お、来た来た」と、囁く声が背後で聞こえる。遥は何も言えず、肩を縮めて机に沈む。身体は疲れ切り、まだ熱や痛みが残っているのに、誰も気にしない。教室の空気そのものが、遥を見せ物にする装置になっていた。
一人がノートを落とす。拾おうと手を伸ばすと、別の誰かがわざと足で蹴り、遥の腕や肩に触れる。その度に遥は「ご、ごめん……」と小さく呟くしかなく、謝る声も笑い声にかき消される。
「お前、またなんかやらかしたの?」
と、クラスの中心にいる男子の声。
「いや、そういうの、私にはわかんないけど」
と、女子が小馬鹿にした調子で続ける。
遥はただ、俯いてうなずくしかない。何を言われても反撃できず、反論すればさらに笑い者にされる。
昼休み、誰もが休む中、遥だけは呼び出される。机の下に隠れたプリントを取らされ、友達のフリをして近づいてきた者に見せ物のようにさせられる。
「ほら、ちゃんとできるんだろ?」
と笑いながら手を叩く声。遥は必死に笑顔を作ろうとするが、手は震え、唇もかすかに震える。
授業中も容赦ない。ノートの文字を指摘され、書き直させられる。椅子の位置を変えられ、身体の一部に不自然な負荷がかかる。誰も助けてくれない。教師も注意はせず、ただ「静かにしなさい」とだけ言う。
心の中で、遥は自分を責める。
「どうして俺はいつもこうなるんだ……ちゃんとやろうとしても、何もかも裏目に出る……俺なんて……」
誰にも見せられない、押し殺した声。涙はこぼれそうになるが、声に出せない。教室はその沈黙と、忍び笑う視線で満ちている。
午後の休み時間、クラスの数人がかりで雑用を押し付けられる。教材を運ばされ、机や椅子を整え、声を出すと嘲られる。身体的にも精神的にも、圧迫され続ける。
遥は、自分の存在そのものが「いじられるためにある」かのような感覚に陥る。笑顔を作ろうとしても、すぐにそれは利用され、羞恥に変わる。心の奥で自己否定が波のように押し寄せ、声にならない呻きが喉を締め付ける。