テラーノベル
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春。桜が舞い散り、新学期が始まった。教室には新しいクラス表と席替えのざわめき。大地はそわそわしながら名簿をのぞき込んでいた。
「うぉぉ〜! ついに来たな! この一年を決める大勝負!」
「ただの席替えだろ」
「いやいや! 俺にとっては人生の分岐点だ! 隼人の隣になれるかどうかで未来が変わる!」
「バカか」
隼人は冷めた表情で自分の名前を探し、座席番号を確認した。
窓際の後ろから二番目。悪くないポジション。
「お、隼人はそこか! ってことは俺は……」
大地が自分の名前を見つけて、固まった。
――隼人のすぐ隣。
「……まさかの……!」
「……最悪だ」
「うぉぉぉぉ! 俺たち運命共同席じゃん!」
教室がざわめきに包まれ、大地は隼人にしがみつきそうな勢いで喜びを爆発させていた。
授業が始まっても大地はそわそわ落ち着かない。
「隼人〜ノート見せて〜」と覗き込んだり、わざとシャーペンを転がして拾わせたり。
「うるせぇ。集中しろ」
「だって隼人が横にいるんだぞ? 集中できるわけない!」
「知らねぇよ」
先生から「大地、静かに!」と注意されても、大地はニコニコ。
クラス全員が「またか」と慣れたように笑っていた。
休み時間。大地は机をぐいっと寄せ、隼人のスペースを半分侵食していた。
「なぁ隼人、これから一年間ずっと隣だぞ! 朝の挨拶も、授業中のため息も、放課後の寝顔も、ぜーんぶ見放題!」
「気持ち悪ぃな」
「お前の存在は俺にとって教科書より大事だからな!」
「勉強しろ」
隼人は眉間にしわを寄せつつも、机を完全には離そうとしなかった。
放課後。大地は嬉しそうに窓際に腰かけ、夕焼けを眺めながら言った。
「なぁ隼人。最初にお前にいじめられたときさ、こんな未来が来るなんて思わなかった」
「……俺も思わなかった」
「でも、こうして隣になって……やっぱり運命だよな」
隼人は少しだけ口元を緩めて、大地のノートにペンを走らせた。
そこにはシンプルな一言。
《うるさい。でも隣でいい》
大地はそれを見て、にやにや笑いながら隼人の肩にぐいっと寄りかかった。
「……隼人、やっぱお前最高!」
「重い、どけ!」
夕暮れの教室に、いつもの賑やかな二人の声が響いていた。
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