学期の始めでもない、中途半端な時期。
二年B組の教室に転校生が現れた。
「よっ! 今日からこのクラスにお世話になりまーす! 大地って言います! よろしくな!」
前の学校のブレザーは色もデザインも違って、ひとりだけ場違い。
それでも大地は人懐っこい笑顔を浮かべて、クラス全員に手を振った。
(……なんだ、あのバカみたいに明るいの)
クラスの中心にいる隼人は、腕を組んでじっと大地を観察していた。
目立ちすぎる転校生。しかも自分の席のすぐ後ろに配置される。
何かイラッとする。
だから隼人は、いつものように「歓迎のいじめ」を仕掛けることにした。
翌朝。
大地が教室に入ると――黒板消しがぱふっと頭に直撃した。
チョークの粉が白く舞い、髪も肩も真っ白になる。
「……うわぁ!」
クラスがクスクス笑う。
隼人は机に足を投げ出し、わざとらしく言った。
「よう、転校生。ウチの学校の挨拶だ」
普通なら気まずくなるはず。だが大地は頭をバサバサさせながら、にやっと笑った。
「サプラーイズ! すげー! これ漫画でしか見たことねぇ!」
「……は?」
「歓迎イベントありがとな! 今日から俺、ネタの神様に愛されてるかもしれねぇ!」
クラスがどっと笑い、大地は深々とお辞儀をした。
「今後もよろしくお願いします!」と。
(……なんだこいつ。全然効いてねぇ)
隼人は眉をひそめるが、心のどこかでざわついていた。
昼休み。
隼人は机に画びょうを仕込んでみた。
大地が座ると――「いてっ!」と跳ね上がる。
(よし、今度は効いただろ)
……が、大地は画びょうを摘まみ上げ、にっこり笑った。
「ピッカピカの画びょうゲット〜! 俺、今日からコレクション始めるわ!」
「……はぁ?」
「ありがとな隼人! 初コレクション記念日だ!」
周りがまた笑う。
(おいおい、なんで“ありがとう”になるんだよ……!)
放課後。最後の仕掛けは靴箱。
隼人は水を入れたバケツをセットした。
大地が靴を取った瞬間、ざばーっと頭から水をかぶる。
「うわっ! 冷てぇぇぇ!」
「これで少しは大人しくなるだろ」
しかし――大地は濡れた髪をかきあげ、にやっと笑った。
「見ろよ隼人! 俺、今日から水も滴るイケメン転校生!」
「…………」
残っていた生徒数人が爆笑。
隼人は呆れながらも、思わず笑いそうになるのを必死にこらえていた。
(……なんでだ。普通は凹むだろ。なんでコイツだけ、俺のいじめが効かねぇんだよ……?)
それが、隼人と大地の奇妙な関係の始まりだった。