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春風の約束

9 - 第9話 告白未満の衝動

2025年09月28日

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放課後の教室に、二人だけが残った。 窓の外では、夕陽がゆっくりと校庭を赤く染めている。


「……なあ、陸」


湊が声をかける。いつも通りの口調だが、どこかぎこちない。

陸は机に突っ伏し、肩越しにちらりと湊を見た。


「なんだ?」


返事は短い。目はどこか遠くを見ている。


湊はしばらく黙り、深呼吸をひとつ。


「……俺、正直に言うとさ」


陸は頭を上げる。呼吸が少し速くなる。


「……陸のこと、考えない日はない」


吐き出された言葉は、教科書の山を越えて、静かな教室の空気に吸い込まれる。

陸の手が小さく震えた。


「……え?」


声がかすかに裏返る。


湊は一歩近づき、目を逸らさずに見つめる。


「……今までも、これからも、ずっと――」


言葉はそこで途切れる。胸の鼓動が速く、言い切る勇気が、今はまだない。


陸は椅子から立ち上がろうとする。視線をそらし、足早に教室を出る。


「……ちょっと、待って……!」


湊の声も届かない。

廊下の窓から差し込む夕陽に、陸の影が長く伸びる。



廊下の角を曲がった瞬間、陸は壁に背を押し当て、息を整える。

心臓が張り裂けそうに高鳴り、頭の中は真っ白だ。


――湊が、俺のこと――?


動揺と戸惑いが入り混じり、素直に向き合えない自分に苛立つ。


教室に残された湊は、手を伸ばすだけで届かない距離を感じていた。


「……ごめん、言わないほうがよかったか?」


声は低く、でも後悔ではなく、ただ溢れた感情の重みを抱えている。


窓の外、夕陽は少しずつ色を失い、教室に淡い影を落とす。

湊はそっと背もたれに寄りかかり、目を閉じた。


――逃げられたけど、今の気持ちは消えない。


静かな教室に残るのは、夕陽と沈黙、そして胸に刺さった衝動だけだった。



陸も廊下の端で立ち止まる。

肩に力を入れ、深呼吸をひとつ。


――でも、どうして心臓がこんなに熱くなるんだ……。


視線を床に落とす。胸の奥で、言葉にできない感情が渦巻く。


その夜、帰宅の途中で雨が降り始める。

陸は傘の下で、一人で歩きながら、湊の声と表情を何度も思い出していた。


「……俺、どうすればいいんだ……」


心の中の混乱は、夕陽のように赤く、しかし触れられないまま静かに燃えていた。


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