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放課後の教室に、二人だけが残った。 窓の外では、夕陽がゆっくりと校庭を赤く染めている。
「……なあ、陸」
湊が声をかける。いつも通りの口調だが、どこかぎこちない。
陸は机に突っ伏し、肩越しにちらりと湊を見た。
「なんだ?」
返事は短い。目はどこか遠くを見ている。
湊はしばらく黙り、深呼吸をひとつ。
「……俺、正直に言うとさ」
陸は頭を上げる。呼吸が少し速くなる。
「……陸のこと、考えない日はない」
吐き出された言葉は、教科書の山を越えて、静かな教室の空気に吸い込まれる。
陸の手が小さく震えた。
「……え?」
声がかすかに裏返る。
湊は一歩近づき、目を逸らさずに見つめる。
「……今までも、これからも、ずっと――」
言葉はそこで途切れる。胸の鼓動が速く、言い切る勇気が、今はまだない。
陸は椅子から立ち上がろうとする。視線をそらし、足早に教室を出る。
「……ちょっと、待って……!」
湊の声も届かない。
廊下の窓から差し込む夕陽に、陸の影が長く伸びる。
廊下の角を曲がった瞬間、陸は壁に背を押し当て、息を整える。
心臓が張り裂けそうに高鳴り、頭の中は真っ白だ。
――湊が、俺のこと――?
動揺と戸惑いが入り混じり、素直に向き合えない自分に苛立つ。
教室に残された湊は、手を伸ばすだけで届かない距離を感じていた。
「……ごめん、言わないほうがよかったか?」
声は低く、でも後悔ではなく、ただ溢れた感情の重みを抱えている。
窓の外、夕陽は少しずつ色を失い、教室に淡い影を落とす。
湊はそっと背もたれに寄りかかり、目を閉じた。
――逃げられたけど、今の気持ちは消えない。
静かな教室に残るのは、夕陽と沈黙、そして胸に刺さった衝動だけだった。
陸も廊下の端で立ち止まる。
肩に力を入れ、深呼吸をひとつ。
――でも、どうして心臓がこんなに熱くなるんだ……。
視線を床に落とす。胸の奥で、言葉にできない感情が渦巻く。
その夜、帰宅の途中で雨が降り始める。
陸は傘の下で、一人で歩きながら、湊の声と表情を何度も思い出していた。
「……俺、どうすればいいんだ……」
心の中の混乱は、夕陽のように赤く、しかし触れられないまま静かに燃えていた。