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さぶた@気分屋
101
小学校五年生。
昼休み。
紬は教室で友達と話していた。
「今日の宿題、算数だって」
「え、マジ?」
「先生が言ってた」
「やだなあ」
そんな話をしていると、教室の後ろが少し騒がしくなった。
振り返る。
蒼真が男子数人に囲まれていた。
「また蒼真?」
「何してんだろ」
近くの女子が笑う。
紬は少しだけ見る。
蒼真は笑っていた。
だから、紬もそれ以上気にしなかった。
放課後。
昇降口。
紬が靴を履き替えていると、蒼真がやってきた。
「先帰る?」
「うん」
「じゃあ俺も」
「悠生は?」
「委員会」
「そっか」
二人で校門を出る。
しばらく歩く。
「今日さ」
紬が話しかける。
「算数のテスト、最悪だった」
「何点?」
「聞く?」
「聞きたい」
「絶対笑うなよ」
「分かった」
そんな話をしながら歩く。
いつも通りだった。
途中の公園で、蒼真が足を止めた。
「ちょっと待って」
「何?」
「靴紐」
蒼真がしゃがむ。
紬は先にベンチへ座った。
少しして蒼真が隣に座る。
「紬」
「ん?」
「今日、教室で何か言われなかった?」
「何が?」
「……いや」
蒼真は首を振る。
「何でもない」
紬は深く考えなかった。
「変なの」
「そうだな」
蒼真が笑う。
家に着く。
玄関で靴を脱ぐ。
「じゃあ、また後で」
「うん」
紬は自分の部屋へ向かった。
その途中。
廊下の角から、蒼真の声が聞こえた。
「……だから、もうやめてよ」
紬は足を止める。
誰かと話しているらしい。
でも、声は小さくて聞き取れない。
少し待つ。
「……分かったから」
また蒼真の声。
紬はそっとその場を離れた。
兄が誰かと喧嘩している。
その程度に思った。
翌朝。
蒼真はいつも通りだった。
朝食を食べて。
学校へ行って。
紬にも普通に話しかける。
だから紬は何も聞かなかった。
数日後。
学校から帰ると、蒼真の机の上に小さな紙袋が置いてあった。
紬は横を通り過ぎる。
中身は見なかった。
蒼真がそれを見つける。
一瞬だけ動きが止まる。
そして、そのまま袋を鞄へ入れた。
「蒼真」
「ん?」
「今日、悠生来る?」
「たぶん」
「そっか」
それだけ。
紬は自分の部屋へ戻る。
夜。
紬はベッドに寝転がりながら考えていた。
最近、蒼真は少し変だ。
でも。
何が変なのかは分からない。
学校でも普通にしている。
家でも普通にしている。
自分には優しい。
だから。
大丈夫なんだと思っていた。
一方。
蒼真の部屋。
鞄から紙袋を取り出す。
中には、切った髪を入れるための小さな透明袋が入っていた。
蒼真はそれを見つめる。
昼間、男子たちに言われた言葉が蘇る。
「切れば?」
「女みたいで気持ち悪い」
蒼真は袋を閉じる。
机の引き出しを開ける。
そこへ入れる。
まだ箱はない。
ただ、捨てられないものだけが少しずつ増えていく。
翌朝。
紬は何も知らないまま、蒼真の隣を歩いて学校へ向かった。
「今日、帰り一緒?」
「うん」
「じゃあ決まり」
蒼真は笑った。
紬も笑った。
その頃の紬はまだ知らなかった。
自分が普通だと思っていた毎日のすぐ隣で、蒼真が少しずつ何かを失っていたことを。
コメント
1件
うわあああ……第16話、読んだよ😭💔 紬ちゃんが“知らないまま”でいることの切なさがすごく刺さった…。蒼真くんの異変に気づいてるのに「大丈夫」って思い込もうとする感じ、弟から見た兄の変化ってこんなにも見えにくいものなんだなって思った。途中の廊下の声、机の上の紙袋、その中身…全部がじわじわ胸にくる。 あと「捨てられないものだけが増えていく」って表現が、もう本当にやばい。知らないって、こんなに残酷なんだね。続きが気になりすぎる…!!