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机の下、手がぎこちなく動く。
まわりの声が遠くて、教室のざわめきが耳を塞ぐようだ。
身体の奥で、抑えきれない何かが震えている。
呼吸を整えようとしても、胸が締めつけられ、汗がにじむ。
誰かの視線を感じて、無意識に体を縮こませる。
「やばい……見られたら」
目の前の机の角を爪でぎゅっと握りしめ、音だけが鳴る。
少しでも気づかれまいと、視線を上げない。
けれど、耳に入るのは、笑い声や囁き。
心臓の鼓動が速くなる。
この場から、ただ逃げ出したい。
教室のざわめきが少しずつ大きくなっていくのを感じた。
誰かが指を鳴らし、遥の肩を軽く叩いた。
「おい、遥。音読当てられてるぞ」
声は冷たくて、嘲笑を含んでいた。
顔を上げると、数人が彼をじっと見つめている。
心臓が跳ね上がり、喉が乾く。
体の奥のざわつきはますます強くなっていたが、必死に隠そうとする。
「……わ、わかった」
声は震えていた。
みんなの視線が一斉に彼に注がれ、逃げ場が消える感覚に襲われる。
ページをめくる手も震え、声は時折裏返った。
「ん……あ、あ……」
小さな声が漏れ、周囲から嘲笑が起こる。
遥は恥ずかしさと恐怖でいっぱいになり、ただ耐えるしかなかった。
「見てみろよ、あいつ、また変な動きしてるぜ」
男子の一人が小声で笑う。
「まじキモいわ。なんであんなに静かにできないんだろ」
女子もからかうように囁く。
みんなの目が遥に集まっている。
彼の顔は青ざめ、手は無意識に震えているのがわかる。
「ローター、また強くされてんじゃね?」
「声、漏れてるぜ。バレバレだろ」
誰かが遠くから操作しているような気配もあり、周囲の冷笑が重なっていく。
「あいつ、本当に壊れてんじゃねえの?」
「これがあいつの居場所なんだよ」
冷たい空気の中、誰もが楽しむように見守っていた。
(生徒視点)
教室の隅で、俺たちは息をひそめて彼の様子を観察していた。
遥の肩が小刻みに震え、額には汗がにじんでいる。
彼の手の動きはぎこちなく、時折、痛々しいほど硬直してしまう。
「おい、ちょっと強くしてみようぜ」
俺がそう言うと、近くのやつが控えめに調整のつまみを回す。
遥の体が一瞬跳ね、小さく「ん……」と漏らした。
その声に、俺たちは笑いをこらえきれなかった。
「声出しちゃってるじゃん。マジでキモい」
「こんなんじゃ学校来る意味ねぇよな」
遥は顔を伏せ、俺たちの視線を避けようとしているのが見えた。
それでも、逃げ場はどこにもない。
「お前のために盛り上げてやってんだよ。感謝しろよな」
誰かが冷たく囁く。
俺たちはただ、その痛々しい様子を肴に、今日もストレスを解消していた。
(遥視点)
机に突っ伏して、できるだけ呼吸を殺す。
視線を上げたら、あいつらの顔が見えるから。見たら負ける。
体の奥で、またあの感覚が強くなる。勝手に、俺の意思なんか関係なく。
「ん……っ」――出た。抑えたはずの声が漏れてしまった。
笑い声が刺す。背中に貼りつくような熱。
「声出してんじゃん、キモ」
耳の奥にこびりつく。消えない。
動揺すればするほど、体は勝手に反応する。
机の角を握りしめても、爪が食い込んでも、どうにもならない。
「感謝しろよ、盛り上げてやってんだから」
その声が頭の中で反響して、吐き気が込み上げる。
俺は何も言えなかった。ただ、壊れないように、壊れてないふりをするしかなかった。