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放課後の校庭。 部活の準備に余念のない声や、夕暮れの風に舞う落ち葉の音が混ざり合う。
湊は、制服の袖をまくりながら自転車置き場へ向かっていた。
その時、校門近くから荒い声が響いた。
「おい、待てよ!」
湊がそちらを見ると、数人の男子が陸を取り囲んでいた。
肩をぶつけられ、陸は後ろに一歩下がる。
黒いパーカーのフードを深く被ったその姿は、普段通りの不良の佇まいだが、目の奥に緊張が宿っている。
「なんだよ、またイチャモンかよ」
陸の声は低いが、かすかに震えていた。
湊は思わず足を止める。
「やめろ、陸!」
声を上げた瞬間、湊の心臓が跳ねた。
その声に反応したのか、男子たちは一瞬動きを止める。
しかし、リーダー格の一人がにやりと笑った。
「おっ、転校生か? やんちゃ坊主、守られんのか?」
湊は息を整え、ゆっくりと歩を進める。
「守るつもりはない。ただ、危ないだろ」
その言葉に男子は笑いを浮かべる。
陸は一歩前に出たが、相手の体格に押されて後ろへ下がる。
「……気にすんな、俺一人で平気だ」
しかし、次の瞬間、誰かの肘が陸の胸を弾き、バランスを崩す。
湊は躊躇せずに間に割り込み、腕を伸ばして体を支えた。
「やめろ! もうやめろって!」
その迫力に、男子たちは思わず後ずさる。
陸も驚いた顔で湊を見た。
「……真白?」
「陸、逃げるぞ」
湊は手を差し伸べ、陸を校舎裏まで引っ張った。
息を整えながら、陸は少し笑った。
「……ありがとな」
風が吹き、二人の間の沈黙が柔らかく伸びる。
「大丈夫か?」
湊の声は、少し緊張で震えていた。
陸は肩をすくめ、照れ隠しのように笑う。
「……うん、別に。昔から、なんでお前はこんなに真面目なんだ?」
「昔から変わってないだけだよ」
小さな事件だったが、二人の距離が、わずかに縮まった気がした。
校庭の夕焼けが、二人の影を長く伸ばす。
歩きながら、陸がぽつりとつぶやいた。
「……転校生、いきなり事件に巻き込まれたな」
湊は笑いながら肩をすくめる。
「俺も、たまには役に立つってことさ」
それだけの会話なのに、胸の奥がじんわりと熱くなる。
幼いころの思い出と、今のこの時間が、ゆっくりと重なっていく――。