テラーノベル
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加害者の一人の家は、商業施設から少し離れた住宅地にあった。夜でも灯りが消えない家。
玄関先で靴を脱ぐとき、誰も遥の存在を気にしない。
その会話の延長で、遥を見る。
「入れよ」
「外で凍えるよりマシだろ」
リビングに押し込まれる。
暖房が効いている。
その温度差が、まず罰だった。
「うわ、寒がってる」
「薄着で来るからだろ」
コートを脱ぐ必要のある者はいない。
脱がされるのは、遥だけだ。
「ほら、そこ」
指されたのは、ソファの前の床。
カーペットが敷かれているのに、座る許可はない。
「立て」
「壁向いて」
従った瞬間、背中に衝撃。
拳だった。
「っ……」
息が詰まる。
音が、室内に鈍く響く。
「声出すな」
「家だからって調子乗るなよ」
続けて、脇腹に蹴り。
足先が、確実に入る。
遥の体が壁にぶつかる。
「ほら、倒れんなって言ったろ」
「床汚すな」
腕を掴まれ、引き起こされる。
(……立て)
(倒れたら、また理由になる)
別の方向から、腹に一発。
今度は拳ではなく、肘。
「寒いんだろ?」
「動けば温まるって言ったよな?」
殴る理由が、寒さ。
寒さの原因は、薄着。
薄着にしたのは、彼ら。
だが因果は、すべて遥に戻る。
「はい、次」
足を引っかけられ、転ばされる。
床に膝を打ちつける音。
すぐに、背中に蹴り。
「逃げる姿勢」
「反省してない」
背中、腰、太もも。
順番に蹴られる。
数は、数えられない。
数える意味もない。
誰かが言う。
「家だとさ、周り気にしなくていいの楽だな」
笑い声。
「静かにできるし」
「ちゃんと我慢できるし」
遥は歯を食いしばる。
声を出さない。
それが唯一、悪化を遅らせる方法だから。
「黙ってるのが一番ムカつく」
「余裕あるみたいじゃん」
顔の横に、拳。
殴られる前に分かる距離。
次の瞬間、頬に衝撃。
視界が揺れる。
「目、逸らすな」
「ちゃんと受けろ」
床に転がされる。
背中から。
すぐに、腹を蹴られる。
「丸まんな」
「守るな」
命令と暴力が、同時に来る。
(……俺が悪い)
(俺が……普通じゃない)
そう思った瞬間、少しだけ楽になる。
責める対象を、自分に固定できるから。
「なぁ」
誰かが屈み、顔を覗き込む。
「家で殴られてるって、どんな感じ?」
答えなくていい。
答えは、もう決まっている。
「今と一緒だろ」
「だから慣れてる」
また蹴り。
「ほら、慣れてるなら耐えろよ」
誰も止めない。
誰も疑問に思わない。
ここは“たまり場”。
殴るために集まった場所だ。
最後に、誰かが言う。
「今日はこのくらいでいいか」
「帰る前に、ちゃんと立てるか確認しよ」
腕を引っ張られ、無理やり立たされる。
足が震える。
「立ててるじゃん」
「偉い偉い」
その言葉が、一番痛かった。
殴られたからではない。
殴られても立つ役割が、完全に定着したからだ。
遥は何も言わない。
言葉は、もう奪われている。
暖房の音だけが、部屋に残っていた。
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