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看護師に名前を呼ばれた栞は、椅子から立ち上がり診察室へ向かった。

第二診察室のドアをノックして「失礼します」と声をかけてから中に入る。

診察室では、前回と同じように直也がパソコンに向かっていたが、栞が中へ入ると手を止めてにっこりと微笑んだ。




「こんにちは! あれから調子はどうかな?」

「発作は一度も起きていません」




栞は、少し恥ずかしそうに微笑みながら答えた。

その瞬間、直也の表情が一瞬硬くなったように見えたのは、気のせいだろうか?



一方、直也は胸の高鳴りに戸惑いを覚えていた。

十以上も年下の女子高生にドキドキするなんて、これまでの自分では想像もつかない。絶対にあり得ないことだ。

直也の女性の好みは、どちらかというと色気のある大人っぽいタイプの女性だった。それなのに、この反応は明らかにおかしい。

直也はその動揺を悟られないように、表情をこわばらせた。それが、栞に伝わってしまったようだ。



このままではまずいと思った直也は、一度深呼吸をしてから穏やかにこう言った。




「それは良かった! やっぱり一過性のものかもしれないね。これからはストレスをためずに、なるべくリラックスして生活するよう心掛けてください」

「はい」

「で、受験勉強の方は順調?」

「はい。以前よりも集中できるようになりました」

「そっかぁ。行きたい大学があると、やっぱやる気が出るもんなぁ」

「はい」

「じゃあ、もうひとつ聞くけど、友達の件は?」

「あ、はい……実は、先生がくれた本を読んで、その通りに実行してみました」

「お、それは前向きでいいね。で、何か変化はあった?」

「はい。『逃げるが勝ち』を実践して成功しました」

「そっかぁ……逃げたんだね! 勇気を出してよく頑張ったね」

「はい。そのおかげで、新しい友達ができました」




栞は嬉しそうに微笑みながら直也に伝えた。




「やったじゃん! やっぱり前向きに行動すると、良いことがあるんだなぁ。頑張ったね、偉いぞ!」




直也に褒められた栞は、少しくすぐったい気持ちになる。




「だったら、もう心配はないかな。ところで、薬は飲んだ?」

「いえ、一度も飲んでいません。お守りになってます」

「了解! だったら、もう処方は必要なさそうだね。それにしても、勇気を出して一歩踏み出した栞ちゃんは、偉いぞ! これからもその気持ちを忘れずに、常に前向きにね! そうすれば、絶対に大丈夫!」




直也は栞の目をしっかりと見つめながらそう言った。

そして、電子カルテに入力を始めた。


その時栞は、直也から言われた言葉の意味を考える。




(そっか……もう大丈夫ってことは、私はここに来る必要がなくなるんだ……)




栞はなぜか無性に淋しさを感じた。



偶然見つけたクリニックの看板。それがきっかけで、栞はこのクリニックを訪れた。

直也に話を聞いてもらうことで心の不安は消え、身体の不調も一気に解消された。

それだけではない。

栞の身の回りの不安が、一気に解決されたのだ。


たった二度の訪問だったが、この場所は栞にとって特別な意味を持つようになっていた。

しかし、もうここに来る必要がないのだと分かると、胸にぽっかりと淋しさが広がる。


その淋しさに耐えきれず、栞はおずおずと口を開いた。



「あの……また不安になったら、ここへ来てもいいですか?」



少し思いつめたような栞の声に気づき、直也はキーボードから手を離した。

そして、くるりと栞の方を向くと、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめてこう言った。



「もちろんだよ。不安なことがあったら、いつでもおいで」



その言葉に、栞はホッとした表情を浮かべた。


そこで、栞の最後の診察が終わった。



栞が椅子から立ち上がると、直也が最後にこう言った。



「受験、頑張れよ! 君が僕の後輩になることを、心から祈ってます」

「はい! 頑張ります!」



栞は最後に、自分の運命を変えてくれた医師の姿をしっかり目に焼き付けようと、白衣姿の直也をじっと見つめた。

そして、深く一礼をしてから診察室をあとにした。





会計には、前回と同じ園田がいた。

栞が今日で診察が終わったことを告げると、園田は優しい笑顔を浮かべて言った。



「良かったわ。でも、また何かしんどいことがあったら、いつでもいらっしゃい」



その柔らかな口調は、亡き母の雰囲気によく似ていた。

母親に似た園田にもう会えないと思うと、さらに淋しさが募った。


会計を済ませた栞は、待合室で親切にしてくれた三人へ挨拶をしてから、クリニックをあとにした。



駅前にあるこの小さなクリニックは、栞にとって忘れられない特別な場所になった。

辛い状況から救ってくれたこのクリニックのことを、一生忘れないだろう。



栞は足を止めて振り返ると、もう一度クリニックをじっと見つめる。

それから、背筋をピンと伸ばして歩き始めた。



栞は、これまで感じたことがないほど清々しい気持ちで、アルバイト先へ向かった。

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コメント

13

ユーザー

発作もおさまり、本当に良かったね✨ お互いに淡い恋心を抱く二人.... また再会できる日が やって来ますように🙏🍀

ユーザー

大学生になって一人暮らし始めたら不安になる事もあるかもね? でも駆け込み寺ができたから、心強いね😌 悩んだらまたクリニックに行こうね❣️先生に会うために。🫶🏻︎💕︎︎

ユーザー

とりあえず、栞ちゃんの症状も良い状態で、一旦診療終了は、正直喜ばしいことなんだけど、直也先生に会えない事に淋しさを感じるとは、やっぱり、栞ちゃんの中で、自分の気持ちを前向きに変えてくれた直也先生は、もう特別な存在なんだね😊💕 受験頑張って、合格の報告を、ぜひぜひ直也先生に伝えに行こう😆✴️ 絶対、直也先生も、気になってるはずだから❤

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