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放課後の廊下はオレンジ色で、窓際に積もったプリントが風でめくれていた。相談室のドアが、軽く二回ノックされる。
「……入れ」
扉を開けたのは、同じ学年の女子だった。
髪を下ろしたまま、目元に疲れを溜めている。
「……ごめん、突然」
「別に。座れよ」
彼女は椅子に腰を下ろし、膝の上で手を組んだ。
しばらく視線を落としたまま、やっと口を開く。
「最近、友達と話してても……なんか置いてかれる感じがして。
笑ってる話題についていけないと、すぐ“つまんない子”みたいになっちゃう」
「おまえがつまんないわけじゃないだろ」
「でも……みんなのスピードに合わせられないと、距離できるじゃん。
私、もっと頑張らなきゃって思うけど……疲れるだけで」
日下部は机に肘をつき、彼女の言葉を待った。
「……なんで、合わせるだけでこんなにしんどいんだろ」
「走ってるやつの速さに無理やり合わせたら、息切れするのは当たり前だ」
「でも、止まったら……」
「止まったら、止まったやつの隣にいるやつも見える」
彼女は少し目を見開いた。
窓の外、夕日の中を鳥がゆっくり横切る。
「……そんな人、いるのかな」
「探せばな。少なくとも、合わせなきゃ繋がれない相手よりはマシだ」
短く息を吐いた彼女は、立ち上がるときに小さく笑った。
「……ありがと。少し楽になった」
「おう」
ドアが閉まる音のあと、日下部は机に頬杖をつき、外の空をぼんやりと見つめた。
自分にも、同じように探してほしい誰かがいることを、口には出さなかった。