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コメント
1件
うわ、これ…読んでて息が苦しくなりました。問い詰める側の「間」の取り方、遥の言葉がどんどん削られていく感覚、すごくリアルで。特に「ごめん」が「意味ないから」って切られる場面、胸が痛かったです。何を言っても違うと言われる前提だけが残って、最後の「何が悪いの?」でまたループする構造が、逃げ場のなさを完璧に描いてる。文体も抑制が効いてて、余計な装飾がないからこそ、この閉塞感が際立ってました。続きが気になります。
体育の授業。
ドッジボール用のコートの内側には遥だけが立っていた。
ルールは最初から決まっている。
中は遥一人、外はそれ以外。教師はそれを崩さない位置に立っている。
「何で一人かわかる?」
いきなり声が来る。まだ始まっていないのに、先に理由を求められる。
遥は一瞬考えるが、考えている時間を見られる。
「ほら、止まってる」
別の声が重なる。
「答えろよ」
投げられたボールを避けながら、口を開く。
「……遅い、から」
言った直後に、間違えた感覚が残る。
「“遅い”って何が?」
すぐ拾われる。
「動き?」
「判断?」
選択肢の形で詰められる。どちらを選んでも残る。
「……動き」
答えると、少し間が空いて、笑いが混ざる。
「じゃあ今の動き、早いと思ってる?」
別方向から声が来る。遥は言葉を探す。
「思って、ない」
その間に次が飛んでくる。避ける。姿勢が崩れる。
「ほら崩れた」
「それで?」
止まらない。
「どう直すの?」
遥は息を整える暇もなく言う。
「ちゃんと、見る」
言いながら、自分で曖昧だとわかる。
「どこを?」
すぐ詰まる。
「全部、見る」
「全部って何」
笑いが少し強くなる。
「今見てたのどこ?」
遥は言葉が出ない。さっき見ていた方向を思い出そうとするが、もう次の声が来る。
「答えられないってことは、見てないってことだよな」
誰かがまとめる。
「じゃあさ、見てないのに動けるわけないじゃん」
納得するような声が続く。
遥は否定しようとして、言葉が浮かばない。
「……ごめん」
出たのはそれだった。
「ごめんじゃなくて理由」
すぐ訂正される。
「何が悪いの?」
繰り返される。さっきと同じ形なのに、答えはもう使えない。
「……見てない、から」
「だから?」
繋げさせられる。
「動きが、遅くなる」
「それだけ?」
足りないと言われる前にわかる。
「……周りに、迷惑」
言った瞬間、空気が少し整う。
「最初からそれ言えばいいのに」
軽く笑われる。
「じゃあ迷惑かけてる自覚あるんだ?」
遥は頷こうとして、言葉で答え直す。
「ある」
「じゃあどうするの?」
また来る。同じ形なのに、逃げ道がない。
遥はさっき言った答えをなぞる。
「ちゃんと、見る」
「さっき聞いた」
被せられる。
「具体的に」
言い直しを要求される。
「……人の位置」
「どの人?」
増やされる。
「全員」
「無理だろ」
即座に否定される。
笑いが重なる。
遥は何か別の言葉を探すが、次が来る。
「できないこと言ってる時点で分かってないよな」
まとめられる。
「じゃあもう一回」
最初に戻される。
「何が悪いの?」
同じ質問なのに、さっきの答えは使えない気がする。
遥は一瞬黙る。
その“間”がそのまま拾われる。
「ほらまた止まってる」
逃げようとしているように見える。
「答えろって」
重ねられる。
遥は口を開く。
「……考えるのが、遅い」
少し変えたつもりの答え。
「さっきと同じじゃん」
すぐに崩される。
「変わってないよね」
固定される。
遥の中で、選べる言葉が減っていく。
どれを出しても同じ場所に戻される感覚だけが残る。
「結局さ」
誰かが軽く言う。
「何も分かってないんだよ」
その一言で、全部がまとめられる。
遥は否定できない。否定するための言葉がもう残っていない。
次の声が来る前に、何か言わなければと思う。
けれど浮かぶのは、同じ言葉だけだと分かっている。
「……ごめん」
またそれになる。
「だからそれいらないって」
すぐに切られる。
「意味ないから」
言い切られる。
遥の中で、言葉がさらに減る。
何を言っても違うと言われる前提だけが残る。
そしてまた、同じ質問が来る。
「何が悪いの?」
終わっていない。最初から続いている。