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ふみ
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美術の時間は静かなはずなのに、遥の机の周りだけ、最初からざわついている。
課題は「自画像」。紙は全員同じ、時間も同じ。違うのは、見られ方だけだと遥は最初から分かっている。
「それで提出するつもり?」
後ろから声が落ちてくる。
遥はペンを止める。止めた瞬間に、その動きが拾われる。
「今止まったよな」
別の声が重なる。
「何で止まったの?」
理由を求められる。まだ何も起きていないのに、先に責める形だけが整っていく。
遥は紙を見たまま答える。
「……描き直そうと思って」
「どこを?」
すぐに狭められる。
「目」
「何が変なの?」
具体を要求される。
遥は言葉を探す。自分でもはっきりしていない部分を、はっきりさせて言えと言われる。
「……形が」
「どの形?」
間を置かせてもらえない。
「左右?」
「大きさ?」
選択肢の形で詰められる。
「……左右」
選ぶと、少し笑いが混ざる。
「じゃあさ、今まで気づかなかったの?」
別方向から刺される。
遥は答える。
「……気づいてた」
「気づいててそれ?」
言葉が重くなる。
「直してこれなんだ」
まとめられる。
遥の中で、さっきの答えがすでに間違いだった感覚が残る。
「じゃあさ」
誰かが紙を軽く指す。
「これ“自分”なんだよな?」
遥は小さく頷く。
「似てると思ってる?」
すぐ次が来る。
遥は少しだけ迷う。
その迷いが、そのまま拾われる。
「今迷ったよな」
逃げ場がなくなる。
「どっち?」
選ばせられる。
「……似てない」
言うしかない。
「じゃあ何で描いたの?」
理由を求められる。
「課題、だから」
「それ答えになってない」
即座に否定される。
「“自分”描く課題で似てないの出すって何?」
言葉が重なる。
遥は言い直す。
「……うまく描けてないから」
「“うまく”って何?」
また抽象に戻される。
「どこが?」
細かくされる。
遥は紙を見る。目、輪郭、全部が曖昧になる。
「……全体」
「便利だな、その言い方」
笑いが漏れる。
「じゃあさ、全体ダメって分かってて出すの?」
答えは分かっている形で聞かれる。
「……時間が」
口に出した瞬間に、違うと分かる。
「時間のせいにするんだ」
すぐ拾われる。
「みんな同じ時間だけど?」
比較が入る。
遥は黙る。
その沈黙がそのまま意味になる。
「答えられないってことは、理由になってないよな」
誰かがまとめる。
遥は否定しようとして、言葉が出ない。
「じゃあさ」
紙が軽くめくられる。
「これ提出したらどうなると思う?」
未来を答えさせられる。
「評価、下がるよな?」
確認の形で押される。
遥は小さく言う。
「……うん」
「それでいいの?」
続けて来る。
遥は止まる。
「よくない」
答えるしかない。
「じゃあ何で直さないの?」
最初に戻る。
遥は言葉を探す。さっきと同じ答えしか浮かばない。
「……直してる」
「どこを?」
また同じ形になる。
循環しているのが分かるのに、抜けられない。
「さっき“全体”って言ったよな」
確認される。
「全体直せてると思ってる?」
遥は答えられない。
答えようとするほど、全部違う気がする。
「結局さ」
誰かが軽く言う。
「何がダメか分かってないんだよ」
まとめられる。
遥は否定できない。
分かっていないのか、言えないのか、その区別もつかない。
「じゃあ書けよ」
声が落ちる。
紙の端を指で叩かれる。
「“何が悪いか”全部」
逃げ道がない形にされる。
「自分で分かってるなら書けるよな」
前提が置かれる。
遥はペンを持つ。
手が止まる。
「また止まった」
すぐに言われる。
「さっきからそればっか」
評価が積み重なる。
遥は書き始める。
“目が左右で違う”
書いた瞬間に、声が来る。
「それだけ?」
足りないと言われる。
遥は続ける。
“バランスが悪い”
「具体的に」
すぐに狭められる。
遥は言葉を足そうとする。
何を書いても足りないと言われる感覚だけが先にある。
ペン先が迷う。
「遅い」
また言われる。
遥は書く。
言葉は出るのに、どれも合っていない気がする。
「それで直るの?」
横から落ちてくる。
遥は答えられない。
書いているはずなのに、何も進んでいない感覚だけが残る。
周りでは普通に別の話が混ざる。
「今日部活どうする?」
「あとでコンビニ行く?」
笑いが混ざる。
その中で、遥の紙だけが見られている。
「ほら、次」
声だけが途切れない。
「まだあるだろ」
終わらない。
遥は書く。
“全部が悪い”
書いた瞬間に、自分でも雑だと分かる。
「逃げたな」
すぐに言われる。
「“全部”って何」
また戻される。
遥の中で、言葉が減っていく。
何を書いても違うと言われる前提だけが残る。
「ほら」
誰かが笑う。
「自分のことなのに説明できない」
軽い調子で言われる。
遥はペンを握ったまま動けない。
書かなければいけないのに、何を書けばいいのか分からない。
それでも声は続く。
「何が悪いの?」
最初と同じ形。
終わっていない。
コメント
1件
うわ、これ読んでて胸がぎゅーってなったわ……。遥の周りだけ終わらない尋問みたいな空気、すごくリアルで、読んでるこっちまで息苦しくなった。「何が悪いの?」が永遠にループして、答えても答えても否定される感じ、まさに逃げ場なしって感じだった。自分のことなのに説明できないって、一番きついよな……。続きどうなるのか気になるし、遥がどうやってこの空気を抜け出すのか、そこは見届けたい気持ちでいっぱいだわ🔥