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「それにしても、本当にお見事でしたね」
透也が作ってくれたシチューを味わいながら、夏帆は満足そうに微笑んだ。
「だろ? 絶対“寝室見せろ”って言ってくると思ったから、わざとベッドを乱して部屋着を置いておいたんだ」
「さすがです。そこまで考えてませんでした」
「あはっ、過去の修羅場がヒントをくれたんだよね~」
「えっ? そんな修羅場があったんですか?」
「まあ、ずいぶん昔だけどね。若い頃は結構遊んでたし」
「だから慣れてるんですね」
「そういうこと!」
夏帆のアドバイス通りバターを加えたシチューは、前回よりもさらにコクが増し、美味しく仕上がっていた。
添えられたパンも、しっとりもちもちで絶品だ。
「このパン、駅前のお店のですか?」
「そう。朝イチで買ってきた」
「すみません。お疲れなのに、いろいろ気を遣わせちゃって……」
「いいの、いいの。なんか楽しかったし、スカッとしたからね~。やっぱ下心のある人間を退治すると爽快感が違うね」
「はい。私もすっきりです」
「それならよかった」
二人は勝利の余韻をかみしめながら、ワインとともに美味しいランチを楽しんだ。
食事をしながら、話題はいつの間にか仕事のことへと移っていく。
「夏帆ちゃん、よく頑張ってるみたいだね。みんな褒めてたよ。特に野田くんがさ」
「いえ、まだ手探りで、皆さんに聞いてばかりなんですけど」
「そう? でも、みんな言ってるよ。夏帆ちゃんが来てくれて助かったって。おかげで自分の仕事に集中できるようになったってね」
「それならよかったです。もっと皆さんのお役に立てるよう頑張りますね」
「期待してるよ」
かりそめの恋人から上司の顔へ戻った透也を見て、夏帆の胸はときめいた。
普段のゆるふわな雰囲気も好きだが、同じ会社で働くようになってから、彼のリーダーシップある姿にますます惹かれてしまっている。
(いろんな顔を持つお隣さん……このギャップが、大勢の女性を虜にするのかもしれない)
そう思った瞬間、自分もそのひとりになっていることに気づいた。
(駿介に振られて男なんてもう懲り懲りと思っていたのに、もう違う人に心が動いてるなんて……)
その事実に動揺していることを悟られないよう、夏帆は慌てて話題を変える。
「ところで、中条さんが私に頼みたいっていうのは、どんなことですか?」
透也はワインを飲み干すと、静かに口を開いた。
「うん……実は、再来週の日曜日にうちの実家で食事会があるんだけど、一緒に来てほしいんだ」
「えっ? でも、ご家族のお食事会に、なぜ私が?」
「母親がうるさくてさ。食事会に恋人を連れてこなかったら見合いさせるって言うんだよ。だから、君に来てほしいんだ」
夏帆の頭は一気にパニックになる。
(つまり、彼のお母様の前でも、恋人の演技をしろってこと?)
「それって……さっきみたいに恋人のふりをするってことですか?」
「そう。夏帆ちゃん、勘がいいね~」
透也はゆるふわモードに戻り、にこにこと笑う。
「で、でも、お母様を騙すなんて……よくないのでは?」
「大丈夫大丈夫。あの人、そんなことじゃへこたれないから」
「でも、だったら私じゃなくて、中条さんが親しくしてる女性を連れていけば……」
「そう思うでしょ? でも俺今、女断ちしてるから、頼めるガールフレンドがいないんだよね~」
(女断ち……? どうして?)
疑問は浮かんだが、それよりも“自分が透也の恋人を演じる”という事実のほうが衝撃だった。
戸惑う夏帆に、透也は両手を合わせて頭を下げる。
「夏帆ちゃん、お願い! この通り! 頼む!」
「……」
「食事会って言っても、母親の手料理を食べるだけだからさ。それに、新くんと亜希も来るし、きっと楽しいと思うよ」
「亜希さんも来るんですか?」
「家族の食事会だからね。それに、姪の亜美も来ると思うよ~」
「姪っ子さんも?」
亜希から亜美の話を聞いていた夏帆は、少し心が動く。
「大丈夫。絶対迷惑かけないから」
「でも……お母様を騙すのはちょっと……」
「本当に大丈夫だから。あの人、気が強いし、全然問題ないから」
「元気なお母様なんですね」
「そうだよ~、元気の塊みたいな人。それに夏帆ちゃんが来たら絶対喜ぶと思う」
「でも……」
「じゃあ、もし来てくれたら、俺がひとつ何でも言うことを聞くってのはどう? 欲しいものでも、行きたい場所でも、何でもあり!」
その魅力的すぎる申し出に、夏帆の心は大きく揺れた。
(何でも……本当に?)
そんなことを言われたら、誰だって心が傾く。
夏帆も例外ではなかった。
「……分かりました。協力させていただきます」
「そう言ってくれると思ったよ。ありがと、夏帆ちゃん」
透也はほっとした様子で、笑顔を浮かべた。
そのとき、インターホンが突然鳴り響いた。
「ん? 誰かな……」
透也は不思議そうに立ち上がり、インターホンに応答する。
「はい」
「透也! 母さんよ。近くまで来たから寄ってみたの。開けてちょうだい」
「か、母さん!?」
驚いた夏帆は、勢いよく立ち上がった。
(嘘っ……!)
透也は驚いた顔で夏帆を振り返り、どうするべきか迷っている。
「わ、私……帰ります!」
「ダメだよ。今出たら鉢合わせだ」
「でも……」
二人の戸惑いをよそに、透也の母が大声で急かす。
「早く開けてよ、重いんだから。あなたの好きなもの、いろいろ買ってきたんだから」
「う、うん。今、開ける……」
透也は「夏帆ちゃん、ごめん」と言い、覚悟を決めた様子で玄関へ向かった。
夏帆はどうしていいのか分からず、ただその場に立ち尽くしていた。
コメント
13件
あら!びっくり‼️ご対面😅💦 話はしてたから大丈夫でしょ👌 夏帆ちゃんだったら気に入られるはず ❣️
おかあさまっ!ある意味ナイスなご登場😆 夏帆ちゃんは気に入られてそのままホントの彼女に・・・
紗英が帰ったと思ったら思いがけずのお母様襲来😳⚡️でも先に家族会の恋人役のこと、話しといて良かったね、透也さん&夏帆ちゃん😌🌷 そして昔は遊んでた透也さんも今は女断ち中🤣 それは夏帆ちゃんが本命だからだよねん😍🩷 さぁこの後と夏帆ちゃんが欲しいものが何なのか⁉️とっても楽しみ〜🎶
管野アリオ
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ruruha
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Jasmine
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