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ヘロヘロに綾香ちゃんがなる村田君とやらの声も気になるけど、偶然は必然の繋がりになるようだね。直也先生と栞ちゃん
栞ちゃんと彩香ちゃん 変わらずに仲良しで良かった(o^^o) これも先生の本と栞ちゃんが勇気を出したお陰ですね 二人の仲良しさんが居て大学生活も充実していた所に直也先生との再会❤️ 家も近所が判明してこの後更に急接近しそう(*≧∀≦*) ますます毎日が楽しみですね 栞ちゃん❣️
今度はコンビニで偶然会っちゃうなんて(´,,>ω<,,`)♡ これ迄会えなかったのが不思議な位。 嬉し過ぎてニヤニヤしちゃうよね💕💕色々話しながら送ってもらおう💕 お互い住んでるマンションも近いし。そのうち行き来し合うんじゃない?(〃艸〃)♡ 忙しい直也さんに是非栞ちゃんの手料理作ってあげて欲しいな。 綾香ちゃんとの恋バナもほんわかしちゃう💛
その日、どうやってマンションまで帰ったのか、よく覚えていなかった。
栞は五階でエレベーターを降りると、自分の部屋へ向かった。
このマンションには、大学入学の時から住んでいる。
駅から近く、近所にはスーパーやドラッグストアなどもあり、便利な立地だ。
このマンションがオートロック式であることを知り、父はこのマンションを借りてくれた。
部屋はワンルームだが、広さが10畳ありかなり広い。
部屋には、二人用のダイニングセットとシングルベッド、背の低いリビングボード、そして二人掛けのソファーがあった。
すべて栞の父が揃えてくれた。
ダイニングテーブルは窓辺に置いてあり、そこへ座ると春には街路樹の新緑が、そして秋には紅葉が楽しめる。
ここに住み始めて二年目になる栞は、この快適なこのマンションでの暮らしを満喫していた。
部屋に入ると、栞は荷物を置き、窓辺のダイニングチェアに腰を下ろした。
そして、ぼんやりと窓の外を眺めながら、衝撃的だった今日一日にことを思い返す。
直也との突然の再会、そして、研究室での抱擁。
どちらも栞の心を乱すには、十分過ぎる出来事だった。
あの時、直也は栞の涙をそっと指で拭ってくれた。
その温かい手の感触は、昔交わした握手の時と同じ体温だった。
『色々あったみたいだけど、よく乗り越えたね。偉いぞ!』
直也はそう言ってくれた。その言葉が嬉しくて、つい泣いてしまった。
しかし、栞が泣いた理由はそれだけではない。
ずっと逢いたかった人と再会できた喜びが、彼女の心を揺さぶり涙となって溢れたのだ。
しばらく物思いにふけっていた栞は、ふと我に返り、慌ててほっぺたを軽く叩いた。
「ちゃんとしなきゃ!」
そう呟くと、夕食の支度を始めることにした。
一人暮らしを始めて自分専用のキッチンを持つと、俄然やる気が出る。
義理の母がいた実家では、遠慮して思うように使えなかったが、今は好きなように使えるおかげで、栞の料理の腕もぐんと上がった。
今は週末ごとに父のマンションを訪れ、新メニューを振る舞っている。
「今日は何にしようかな?」
栞は小さな冷蔵庫を覗きながら考えた。
冷凍したひき肉があったので、ミートソースパスタを作ることにした。
パスタソースを仕上げた頃、栞の携帯が鳴った。
綾香からメッセージが届いたようだ。
【うちの親が、また山ほどケーキを持ってきちゃって食べきれないから、今から持って行ってもいい?】
入学当初は自宅から通っていた綾香だったが、今年に入り栞と同じく一人暮らしを始めていた。
綾香の住まいは、栞の最寄り駅の一つ隣だ。
両親が娘を心配するあまり、頻繁に様子を見に来ることを綾香はいつも嘆いていたが、今回もどうやらそのようだ。
ちょうど甘い物が食べたかった栞は、もちろん大歓迎だった。
【ケーキ嬉しい! 今ミートソースを作ったから、夕飯食べて行きなよ】
【ラッキー! 遠慮なくご馳走になりまーす! 今から向かうね!】
【はーい、気を付けてね!】
それから30分も経たないうちに、綾香がやってきた。
ケーキの箱を手渡すと、綾香は慣れた様子で部屋に上がり込む。
何度も行き来し、時には泊まり合う仲なので、綾香にとってこの部屋はもうすっかり馴染みの場所だ。
栞はさっそくパスタを茹で、ミートソースパスタを仕上げた。
サラダを添えて窓辺の席に運び、二人は一緒に食べ始めた。
「栞、また腕上げたね! おいしーい」
「ふふっ、ありがとう」
「あれ? これ買ったの?」
綾香は木製のサラダボウルを見つめながら言った。
「うん、可愛いでしょう?」
「すごく可愛い! シリアルなんかにも使えるよねー」
二人は、よく一緒に買い物にも出かけていた。
綾香が一人暮らしを始めたばかりの頃は、必要なものを揃えるために栞がついて行った。
楽しくお喋りをしながら食事を終え、二人で後片付けを済ませたあと、コーヒーを淹れてケーキを食べ始める。
そこで、栞は今日の出来事を綾香に話してみることにした。
「今日さ、びっくりするようなことがあったんだ」
「なになに? まさかまた告白されたとか? 栞、モテモテだからなぁ~」
「違うよ、実は、あの時の先生に再会したの」
「えっ?」
綾香は目を丸くして驚いた。
「お医者さんって、あの精神科医の先生?」
「そう。心理学の先生が急病で入院したから、その代理として一年間うちの大学で教えるらしいんだ」
栞は、これまでのことをすべて綾香に話していた。
高校時代のいじめのことや、倒れてクリニックに駆け込んだ時のこと。
もちろん、複雑な家庭環境のことや、直也への想いについてもすべて話していた。だから、綾香は全部知っていた。
「そっかぁ……その先生も、たしか慶尚大卒だったよね? だから代役を頼まれたのかな? それにしてもすごい偶然だね」
「うん、驚いちゃった」
「で、どうだったの? 久しぶりに見た憧れの人は?」
「うん……全然変わってなかったよ」
栞は、今日直也に抱き締められたことを、綾香には伏せておいた。
恥ずかしい気持ちもあったが、それ以上に、直也が教授で栞が学生という立場を考え、彼に迷惑をかけないようにと思っていた。
「そうなんだ。じゃあこれから一年間は、週に一回憧れの人に会えるんだね! やったね、栞! なんか楽しそう!」
「楽しめるのかなぁ……先生、綺麗な女子学生たちに大人気みたいだし、私のことなんて目に入らないかも」
「そんなことないよ! 栞は自分では分かってないけど、すごく可愛くて人気あるんだからね! もっと自信を持たないと!」
「お世辞でも嬉しいよ。ありがとう」
「お世辞なんかじゃないってば! 本当のことだよ」
綾香がムキなって言ったので、栞は思わずクスクスと笑った。
それにつられて、綾香も笑う。
「それより、綾香の方こそどうなの? 気になってる村田(むらた)君とは、その後どうなった?」
綾香は現在、同じ経済学部に通う、頭脳明晰な村田裕理(むらたゆうり)という学生に片想い中だ。
「それがね、この前偶然隣の席になって、少し話せたんだー」
綾香は、そう言ってからキャーと叫ぶと、恥ずかしそうに両手で顔を覆った。
「すごい進展じゃない! そうやって少しずつ距離を縮めていくのがいいよね。特に私たちみたいに恋愛に奥手のタイプはさ」
「私もそう思う。でね、村田君、すっごく話し方がソフトで優しいの。もう声だけでヘロヘロになっちゃった」
今度は栞がキャーッと叫び、二人は声を出して笑った。
栞は、こうして親友の綾香と『恋バナ』ができることに、心から幸せを感じていた。
綾香と友達になれたのは、栞が勇気を出して一歩踏み出したからこそ。そして、ずっと変わらず交友関係を続けてくれる綾香に対し、栞は心から感謝の気持ちでいっぱいだった。
その後、そろそろ綾香が帰ると言ったので、栞は駅まで送ることにした。
ちょうどコンビニにも寄りたかった。
駅で綾香を見送った後、栞は来た道を戻り、途中のコンビニに立ち寄った。
そこで、キャビンアテンダントの特集が掲載されている雑誌を購入し、店を出ようとした。
その瞬間、入ってきた人とぶつかってしまう。
栞が持っていた袋は床に落ち、雑誌の表紙が袋からはみ出してしまった。
ぶつかった相手はすぐに落ちた雑誌を拾い上げて、栞に渡してくれた。
「すみません、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそごめんね!」
その声に聞き覚えのあった栞は、顔を上げて相手を見た。
そして、思わず声を漏らした。
「あっ!」
目の前に立っていたのは、直也だった。
「あれっ、栞ちゃんだ! やっと三茶で会えたね!」
直也はニコニコしている。
栞は驚きですぐに言葉が出なかったが、一度息を吸ってからこう返した。
「すごい偶然ですね! 先生の家って駅のこっち側なんですか?」
「うん、そうだよ。ほら、あそこに見えるだろう? あのマンションの14階!」
直也が指差した先には、大手不動産会社が建てた立派な分譲マンションがそびえ立っていた。
栞のマンションは、そこをさらに100メートルほど進んだ場所にある。
栞はその豪華なマンションの前を通るたびに、いつもため息をつきながら羨望の眼差しで見ていた。
「あそこでしたか!」
「うん。栞ちゃんの家はどこ?」
「先生のマンションからさらに100メートルほど行ったところです」
「マジで? すごい近くにいたんだなぁ……今まで会わなかったなんて不思議だね」
直也はそう言った後、栞が持っているゴシップ雑誌を指差して聞いた。
「その雑誌、よく買うの?」
「あ、いえ……たまたまこの特集があったので……」
栞が指差した部分には、『キャビンアテンダントのお仕事風景&日常生活全公開!』と書かれていた。
「そっか! 栞ちゃんはキャビンアテンダントを目指してるんだったね」
「はい。競争率が激しいので厳しいかもしれませんが、後悔しないようにチャレンジだけはしたくて」
「いいねぇ、その前向きな姿勢! あ、ところでさ、すぐに買い物を済ませてくるからちょっと待ってて! 一緒に帰ろうよ!」
「はい……」
直也は弁当コーナーへ行き一つ商品を選ぶと、レジで会計を済ませすぐに戻ってきた。
「じゃ、行こうか」
コンビニを出た二人は、肩を並べて大通り沿いの歩道を、ゆっくりと歩き始めた。