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「なぁ、さ」
蓮司の言葉に、女子グループが振り向いた。
「“守ってます”って顔して、結局やってることはさ、何?」
彼は教卓に腰をかけ、指でノートの端をなぞりながら、飽きたように言った。
「──あいつら、加害者でしょ?」
誰もすぐには反応しなかった。
けれど、確かにその言葉が、“空気”になった。
「なんかさ、最近の被害者って、偉くね?」
そう言って笑ったのは、別の男子だった。
「エロ被害、正義の味方ごっこ──全部、免罪符。こっちは見ててうんざりなんだけど」
「しかもペアで? 共犯で? キモすぎ」
女子たちが、口元に手を当てながら囁く。
「だいたい、あいつ──遥のほう、わざとじゃない?」
「触られても逃げないし。媚びてるようにしか見えない」
「で、あの男? 日下部? アイツが騒ぐと被害者アピでしょ?」
「気持ち悪っ」
教室の壁に貼られた進路表の横に、いつの間にか紙が追加されていた。
【性被害ゴッコ】加害ペア一覧表
No.1 日下部×遥
No.2 蓮司×沙耶香(←これは誰かが冗談で追加)
「誰かが書いたらしいけど、もうみんな知ってるでしょ?」
誰かがそう言って笑う。
蓮司は何も言わず、その紙を指でなぞった。
そして、ふと、つぶやくように。
「“共犯”って、きっとこういうの、言うんだよね」
それだけで、誰も反論しなかった。
日下部が廊下から戻ってくると、女子がわざとらしく声を上げた。
「きゃー、また来た。“正義の変態”〜」
「今日は誰守るの? それとも──誰犯すの?」
男子たちがドッと笑う。
日下部の拳が、音を立てて震えた。
(──違う。そんなつもりじゃない)
それを、誰も聞こうとはしなかった。
遥は遠くの席で、ただ窓の外を見ていた。
誰かが「また“演技”中だ」と言った。
“痛みを見せない”その姿勢すら、
今や「罪」になっていた。
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