相談者は、今日は静かだった。
椅子に座っても足は動かない。
「珍しいな」
蓮司が言う。
「なにが」
「最初から黙ってる」
「今日は喋る内容が、あんま明るくない」
「ここ、そういう日多い」
相談者は苦笑した。
「学校でさ」
「うん」
「味方っぽい人、できたんだよ」
「お、いい話?」
「……普通ならな」
蓮司は続きを待つ。
「最初はさ」
相談者は指先を見つめる。
「ノート見せてくれたり、声かけてくれたり」
「自然だな」
「うん。だから油断した」
「で?」
「次の日から」
少し間。
「その人、呼ばれなくなった」
「どこに」
「グループ。昼。放課後」
蓮司は眉を上げる。
「理由は?」
「分かんない」
「でも」
「俺と仲良くしたから、って空気」
相談者は言い切った。
「直接言われた?」
「言われない」
「一番やだな」
「視線で分かる」
蓮司は椅子にもたれた。
「その人、どうした」
「離れた」
「お前から?」
「向こうから」
「責められないな」
相談者は小さく頷く。
「俺さ」
「うん」
「それ見て思った」
「何を」
「誰かと仲良くすると、迷惑になる」
蓮司はすぐには返さなかった。
「その構造」
「?」
「意図的だな」
「誰が?」
「集団」
相談者は顔をしかめる。
「自然じゃないの?」
「自然に見せてるだけ」
「どういう」
「孤立してるやつに近づく=リスクって学習させてる」
「……あ」
「だから」
蓮司は淡々と言う。
「誰も直接禁止しない。
でも結果は同じ。
近づかなくなる」
相談者は息を吐いた。
「俺が悪いみたいになる」
「される」
「実際は?」
「位置の問題」
「位置」
「弱い場所にいるやつは、繋がると引きずられると思われる」
「事実じゃん」
「事実っぽく使われる」
少し間が空く。
「なあ」
相談者が言う。
「じゃあ俺」
「うん」
「一人でいた方がいい?」
「選択としては、合理的」
「きつ」
「きつい」
蓮司は否定しない。
「でも」
「?」
「全部の味方を、同じ場所で作る必要はない」
「学校以外?」
「それも」
「ここ?」
「ここも」
相談者は考える。
「学校で味方作ると、潰される」
「なら」
「?」
「学校では、役割だけでいい」
「友達じゃなく?」
「同じじゃなくていい」
相談者は少し戸惑う。
「冷たくない?」
「現実的」
「俺、冷たい人になりたくない」
「なってない」
「でも距離取るじゃん」
「守る距離」
蓮司は続ける。
「全部差し出すと、奪われる場所もある」
「じゃあ」
「うん」
「差し出さなきゃいい?」
「選ぶ」
「誰を?」
「場所を」
相談者は静かに言う。
「味方ってさ」
「うん」
「一緒にいる人だと思ってた」
「違う」
「え」
「離れても崩れない関係」
相談者は少し驚いた顔をした。
「それ、学校じゃ無理じゃん」
「だから」
「?」
「学校で完結させない」
相談者は立ち上がる。
「俺さ」
「うん」
「また誰かに声かけたら、その人潰れるかもって思う」
「思うだろ」
「どうすりゃいい」
「助ける前に、相手の逃げ道を考える」
「逃げ道」
「一人で立てるか。別の居場所があるか」
相談者は黙る。
「全部背負わなくていい」
「でも見捨てるみたい」
「違う」
蓮司ははっきり言った。
「生き残る順番を間違えないだけ」
相談者はしばらく何も言わなかった。
「なあ」
「なに」
「俺、ずるい?」
「賢い」
「……」
「潰れない選択してるだけ」
相談者は小さく笑った。
「ここでは?」
「うん」
「味方、作っていい?」
「もうできてる」
「え」
「潰れない場所でな」
相談者は、少しだけ肩の力を抜いた。






