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放課後。
校舎の影が長く伸びる時間帯は、好きだった。
人の動きが減り、音が整理される。
蓮司は、窓際に立って校庭を見下ろしていた。
遥は、まだ戻ってこない。
(急がせる必要はない)
追い詰める段階は、もう終わっている。
次は――定着。
(逃げ道がないと、人は暴れる。
逃げ道が“あるように見える”と、留まる)
それが一番、楽だ。
日下部を切ったのも、そのためだった。
中途半端な存在は、ノイズになる。
(あいつは、迷った。迷いは、伝染る)
遥に必要なのは、
“迷わない世界”だ。
誰が正しくて、
誰に従えば、
何をすれば、
怒られずに済むのか。
全部、分かっている状態。
(優しさは、選択肢を減らす)
声を荒げる必要はない。
殴る必要もない。
命令すら、最小限でいい。
(本人が“選んだ”と思わせればいい)
例えば――
助ける。
一度だけ。
誰もいないところで。
(全体の暴力は止めない。
でも、致命傷になる前には手を出す)
そうすると、どうなるか。
(「あいつは、全部じゃない」
「でも、唯一の例外」)
例外は、特別になる。
遥が、それをどう受け取るか。
もう、想像はついている。
(自己否定が強い。
だから、理由を自分に向ける)
「自分が悪いから」
「それでも、見捨てられなかった」
その構図。
(感謝と恐怖は、同時に育つ)
教室の扉が、きしんだ。
遥が入ってくる。
視線が合う寸前で、逸らされる。
(……よし)
まだ、自分から近づいてこない。
それでいい。
蓮司は、少しだけ声のトーンを落とした。
「座れ」
命令。
でも、短い。
遥は、黙って従う。
その動きに、反発はない。
(段階、二)
次は――
“守られている自覚”を、与える。
でも、それはまだ先だ。
(焦ると、壊れる)
今日は、ここまで。
蓮司は窓の外に視線を戻した。
夕焼けが、校舎を赤く染めている。
(逃げなくなったら。
助けを求めなくなったら)
そのときが、完成だ。