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倉庫の闇は冷たく、息をするたびに胸の奥がぎゅっと締め付けられる。膝を抱え、頭を伏せるしかできなかった。掌に残るかすかな温もりが、あの小さな体がもうここにいないことを突きつける。
「……あいつ、どうなったんだ……」
声にならない声でつぶやいた。答えは出ない。ただ、颯馬が残したあの言葉が何度も反響する。
「俺たちが“ちゃんと躾”しておいてやったよ。もう、吠えない」
胸の奥が痛くて、涙が自然にあふれた。手で顔を覆い、震える唇で何度も「違う」と呟く。思わず、かすれた声で問いかけてしまう。
「……いやだ、嘘だよな……どこに連れてったんだ……死んでないよな……?」
返事はない。倉庫の闇だけが答えた。遥は立ち上がろうとしたが、膝に力が入らず、床に崩れ落ちた。そのとき、胸の奥で怒りと恐怖が渦巻いた。
「おい、何やってんだよ」
颯馬の声が頭の中で響く。現実にいないのに、まるで後ろから踏みつけられたような圧迫感がある。床に顔を押さえ、心臓が飛び出しそうに鼓動する。
「……俺だって……俺だって……あいつを守りたかった……」
言葉が震える。手が床を掻き、遥はかすかな希望に縋ろうとするが、現実は冷たい。子犬の柔らかい毛、震える体、あの温もり。もう何もない。
遠くで誰かが笑ったような気がした。颯馬か、友人か、確かめることもできない。ただ、胸を打つ空虚な声が、痛みと恐怖を増幅させる。
「お前も、ちゃんと躾されなきゃな」
その言葉だけが、倉庫に繰り返し落ちた。遥はうめき声を漏らす。怒りでも恐怖でもない、ただ深い絶望。どうすればよかったのか、何をすれば違ったのか、考える余裕もなく、ただ地面にうずくまる。
「……いやだ、いやだ……」
もう声も出ない。泣き疲れ、震えも止まった。目を閉じ、子犬のぬくもりを思い出す。小さな命を守れなかった自分への自己嫌悪が胸を締めつける。自分が悪い、自分が弱い、だからこうなる。
倉庫の扉が軋む音がしたような気がした。遥は顔を上げることもできず、ただ闇に身を沈めた。周囲の存在は見えないが、颯馬やその友人たちの視線、支配する力が、全身を縛り付けるように感じられた。
「……あいつ、俺のせいだ……」
呟きながら、遥はゆっくりと地面に崩れ落ちる。床の冷たさが、涙よりも重く、心の奥まで染み込む。どれだけ叫んでも、どれだけ足掻いても、現実は何も変わらない。全ては自分の無力さ、弱さ、そして無価値さを突きつけるだけだった。
倉庫の闇は遥を包み込み、子犬のぬくもりも、颯馬の冷たい笑みも、全てを無言のまま押し付けてきた。震える体を抱きしめながら、遥は小さく、ただ小さく息を吐いた。