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放課後、ほとんどの生徒が帰った教室。机を片付けようとしていた俺の背中に、いきなり椅子を引きずる大きな音が走った。
振り向かなくても、誰が来たかはわかる。岸田だ。
「おい、何勝手に帰ろうとしてんだよ」
低くくぐもった声。
背中を突き刺すような視線。
机に置いた俺の手がわずかに震えた。
「……別に帰ろうとしてたわけじゃ」
「じゃあ何だよその動き。
自分だけ無かったことにしてるつもり? 甘えんな」
岸田はゆっくり歩きながら、机の角を指で叩いた。
その乾いた音が、空っぽの教室にやけに響く。
彼の目は怒りで濁っているわけじゃない。
ただ、徹底的に俺を拒絶している冷たさだけがあった。
「お前、どの面下げてここにいられると思ってんの?」
「誰もお前を仲間だなんて思ってない。知ってんだろ?」
言葉の端々が、鋭く体の奥に突き刺さる。
俺はただ、呼吸を整えることしかできない。
「答えろよ。
自分がどれだけ嫌われてるか、わかってんのか?」
その問いに、喉がひりついた。
わかってる。わかってるのに、言葉にならない。
何か言えば、全部が崩れる気がした。
「……わかってる」
やっと声を出すと、岸田が口の端をわずかにゆがめた。
「なら、空気吸うみたいにいんなよ。
いちいち目障りなんだよ。存在がさ」